封切り二日目。
席数112の【SCREEN8】の入りは七割ほど。
幸せの絶頂で突然、相方が身を翻すように姿を消す。
残された片方は戸惑い、しかし行方を追う過程で
彼女(または彼の)思わぬ過去が浮かび上がる。
直近ではやや手垢の付いた筋立て。
ただ「思いもよらぬ過去」をどう設定するかで、
まだまだ魅せることができる作品に仕立てられると思い知らされた一本。
勿論、それには主役の『杉咲花』の演技も
大きく影響しているのだが。
忽然と姿を消したのは『川辺市子(杉咲花)』。
三年の同棲のすえ『長谷川義則(若葉竜也)』が
プロポーズをした翌日のこと。
その時は涙を流すほど喜んでいたのに、と
翌日は誂えた浴衣を着て(約束であり思い出の)祭りに出かける予定だったのに、と
『義則』は狐につままれた思い。
彼女を探すうちに、警察も同様に『市子』を追っていることを知り、
刑事の『後藤(宇野祥平)』と共に聞き込みを重ねた結果、
浮かび上がるのは彼女の凄惨な過去。
この提示の仕方が頗る巧い。
先ずは、(最近流行りの)パート毎にカギとなる人物の名前を掲示、
関係するエピソードを紡ぐ。
幼少期から始まり、しかしそこで彼女は『月子』を名乗っており、
加えて顔の面影もないことから、当初は頭の整理に混乱。
が、カードが開かれて行くに連れ、
浮かび上がり整理された事実は
日本の法の隙間に落ち、更には行政の網の目からもこぼれた
少女の悲しい半生。
もっとも、長じてからの彼女は、ある種の「ピカレスク」。
その性格が生来のものか、もしくは過酷な体験から醸成されたものかは分からぬが。
また、『義則』にとっては「ファム・ファタール」。
過去を知り、犯してきたことを知っても庇護する気持ちは消えることがなく。
勿論、彼女に入れ込むのは一人だけではなく、
それだけの魔性を体現した『杉咲花』から流れ出すオーラも素晴らしい。
脚本にも唸らされる。
『市子』の普段の癖や遺していったものが、
その後の捜索の痕跡として繋がっていくことの巧みさ。
過剰な説明は排除し、
すぱんすぱんと小気味良くカットを重ねることで
鑑賞者の創造を刺激する造り。
とりわけラストシーン(ファーストシーンでもある)で、
全てを清算した主人公の行く末を
エンドロールにかぶせて仄めかす手腕。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
舞台の映画化と聞くが、
想定外に秀作。
変に奇をてらわず、ストレートな人間ドラマとして展開したのが奏功とみる。