封切り三日目。
席数118の【シアター5】の入りは五割ほど。
2022年度ノーベル文学賞を受賞したフランス人作家
『アニー・エルノー』の小説〔事件〕を基にした、と
エンドロールで触れられる。
劇中の主人公は1940年の生まれとの設定で、
作家本人も同年生まれなことから、
おそらくは自身の若き日の実体験をもとに綴った
半自伝的作品であろうと察しは付く。
望まぬ妊娠をした若い大学生が
中絶をするための孤軍奮闘。
1960年代初頭のフランスは
人工妊娠中絶が違法とされていた時代。
ありがちな他のケースと同様、
主人公の『アンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)』は文献を調べ、
独力で対処しようとするが、どれも有効には機能しない。
こんな時に相手の男性は頼りに成らぬのが世の常。
また、女子寮の親友達も、罪に問われる可能性を恐れ、
積極的には助力しようとはせず。
あまつさえ、妊娠の心配がないことを
都合よく利用しようとする輩も現れ・・・・。
もっとも彼は、
それなりの対価を払ってはくれるのだが。
直近のアメリカでの上・下院の中間選挙で争点の一つとなったほど、
人工妊娠中絶については今でも、各国で大きな論争の的。
とりわけ西洋の国々ではキリスト教的倫理観が絡んで来るので、
更に旗幟が鮮明になりがちな傾向。
〔17歳の瞳に映る世界(2020年)〕でも
同様のテーマが扱われ、
これはたまさか米国が舞台も、
二人の少女は親に知られることを恐れ、
また、自分達が住んでいる州は人工妊娠中絶が非合法なことから
認められている州迄移動し、処置を望む。
その経緯で、大人たちの搾取に合うのも
やはり同様の流れ。
古くからある、明快な是非を付け難い命題も、
少なくとも選択権の保証や
不当な行為が横行する可能性だけは排除すべきなのだろう。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
とは言え本作での『アンヌ』の姿はあまりに痛々しく、
観ていて胃の腑をぎゅっと掴まれるような寒々しさを覚えるのも
また他方面の事実。
時代とは言え、女性が自身の道を選択するためには、
これほどの代償を支払わねばならぬのか、との。