封切り二日目。
席数143の【SCREEN9】の入りは五割ほど。
『エドガー・ライト』の新作は
過去の{ホラー}や{スリラー}の名作への
オマージュとコラージュに満ち溢れる。
目立つところでも
〔サイコ(1960年)〕〔キャリー(1976年)〕〔ポルターガイスト(1982年)〕と
てんこ盛りだが、そこに
『ウディ・アレン』の〔ミッドナイト・イン・パリ(2011年)〕の仕掛けを盛り込むことで
物語に膨らみと、現代的な諧謔を盛り込んだ極めて異色作。
ファッションデザイナーを夢見る『エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)』は、
所謂「見える人」。
祖母によればその能力は「ギフト」であり、力の強弱はあるものの、
一族の女性に代々発現するものらしい。
もっとも、彼女の母親は、その力に押しつぶされ、
自死をしてしまったのだが。
ロンドンのデザイン学校に入学した『エロイーズ』はしかし、
寄宿舎での生活になじめず、
一人暮らしを始めた屋根裏部屋で奇妙な夢を見るように。
自身も憧れる1960年代にタイムスリップし、
そこで歌手志望の『サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)』と一体化、
彼女が経験することを、さも自身が味わうように追体験する。
最初の内は良かったのだ。
『サンディ』は恋人兼マネージャーの『ジャック』の口利きで
オーディションにも合格し前途洋々。
昔の風俗からインスパイアを受けた『エロイーズ』のデザインは
学校で教師から賞賛される。
しかし、次第に『サンディ』の置かれた立場は怪しいものとなり、
ある日、決定的な悪夢を見てしまう。
そこからは奈落に落ちるように変転。
夢と現実の境目が曖昧になり、傍からは狂気に囚われたと思われ
心身共に衰弱する。
観客の我々から見ても、憑かれたかのように空転する彼女の行いは
常軌を逸し、加えて痛ましい。
しかし、最後に選んだ選択が、物語を意外な方向に導いて行く。
兎に角、脚本が良く練られている。
何気なく聞き流した科白が、
実は重要な伏線になっていたことを後々思い知ることが多々。
同じ1960年代の音楽でも、使い方によっては薔薇色にも
反対にも聞こえてしまう使い方もこなれている。
映像面でも、階段や鏡を使って二人の女性が瞬時に入れ替わる等
技巧を凝らしている。
前半の希望に満ちたテイストから
後半部の都会の恐ろしさを味わうパートへの
じわじわとした転調も見事だ。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
綺麗なコトの裏には必ず闇があるとの世の必然。
主人公が夢見た時代も、実は多くの、
それも女性の犠牲の上に成り立った華やかさであることが
改めて提示される。
それは勿論、「ベル・エポック」と称された
1900年前後の時代でも同様であったろう。