RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ラストナイト・イン・ソーホー@TOHOシネマズ日本橋 2021年12月11日(土)

封切り二日目。

席数143の【SCREEN9】の入りは五割ほど。

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エドガー・ライト』の新作は
過去の{ホラー}や{スリラー}の名作への
オマージュとコラージュに満ち溢れる。

目立つところでも
〔サイコ(1960年)〕〔キャリー(1976年)〕〔ポルターガイスト(1982年)〕と
てんこ盛りだが、そこに
ウディ・アレン』の〔ミッドナイト・イン・パリ(2011年)〕の仕掛けを盛り込むことで
物語に膨らみと、現代的な諧謔を盛り込んだ極めて異色作。


ファッションデザイナーを夢見る『エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)』は、
所謂「見える人」。

祖母によればその能力は「ギフト」であり、力の強弱はあるものの、
一族の女性に代々発現するものらしい。

もっとも、彼女の母親は、その力に押しつぶされ、
自死をしてしまったのだが。


ロンドンのデザイン学校に入学した『エロイーズ』はしかし、
寄宿舎での生活になじめず、
一人暮らしを始めた屋根裏部屋で奇妙な夢を見るように。

自身も憧れる1960年代にタイムスリップし、
そこで歌手志望の『サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)』と一体化、
彼女が経験することを、さも自身が味わうように追体験する。


最初の内は良かったのだ。

『サンディ』は恋人兼マネージャーの『ジャック』の口利きで
オーディションにも合格し前途洋々。

昔の風俗からインスパイアを受けた『エロイーズ』のデザインは
学校で教師から賞賛される。

しかし、次第に『サンディ』の置かれた立場は怪しいものとなり、
ある日、決定的な悪夢を見てしまう。


そこからは奈落に落ちるように変転。

夢と現実の境目が曖昧になり、傍からは狂気に囚われたと思われ
心身共に衰弱する。

観客の我々から見ても、憑かれたかのように空転する彼女の行いは
常軌を逸し、加えて痛ましい。

しかし、最後に選んだ選択が、物語を意外な方向に導いて行く。


兎に角、脚本が良く練られている。

何気なく聞き流した科白が、
実は重要な伏線になっていたことを後々思い知ることが多々。

同じ1960年代の音楽でも、使い方によっては薔薇色にも
反対にも聞こえてしまう使い方もこなれている。

映像面でも、階段や鏡を使って二人の女性が瞬時に入れ替わる等
技巧を凝らしている。

前半の希望に満ちたテイストから
後半部の都会の恐ろしさを味わうパートへの
じわじわとした転調も見事だ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


綺麗なコトの裏には必ず闇があるとの世の必然。

主人公が夢見た時代も、実は多くの、
それも女性の犠牲の上に成り立った華やかさであることが
改めて提示される。

それは勿論、「ベル・エポック」と称された
1900年前後の時代でも同様であったろう。