RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

彼女が好きなものは@TOHOシネマズ川崎 2021年12月4日(土)

封切り二日目。

席数240の【SCREEN7】の入りは一割ほど。

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『浅原ナオト』の原作は
〔彼女が好きなものはホモであって僕ではない〕とのタイトル。

映画化にあたってそれを短く切ってしまったのには
どんな意図があるのだろうと、鑑賞前には勘ぐっていた。

とかく題名を付けるのには下手な日本の映画業界。
邪な考えが無ければ良いなとの、淡い期待も若干合わせながら。


しかし、観終わって、ああ、なるほどと得心が行く。

この後に続くのは、勿論
「ホモであって僕ではない」もありなのだが
「僕であってホモではない」でも
「ホモであって僕でもある」でも良いのだ。

要は、人と人としての結びつきが
全体としてはメロウな、ただ時としてスパイシーさもある文体で綴られている。


『三浦紗絵(山田杏奈)』は池袋のジュンク堂でBL本を買っているところを
同じクラスの『安藤純(神尾楓珠)』に見られてしまう。

中学生の時に腐女子であることがバレ、辛い学生時代を過ごし来たトラウマが在る
『紗絵』は高校入学以来ひた隠しにしてきた秘密を知られ、気が気ではない。

しかし、そのことを何の違和感も無く受け入れた『純』に次第に好意を持つようになり、
ついには告ってしまう。


一方の『純』は母親を含め周囲には隠しているものの、
年上の彼『誠(今井翼)』がいるゲイ。

その『誠』が妻子持ちであることも影響してか、
自分も家庭を持つことに憧れている。

そんな背景もあり、彼女の申し入れを受け入れるのだが・・・・。


「PG12」のレイティングだけあって、
冒頭から男同士のカラミのシーンが展開される。

個人的にはあまり好みではないけれど、
これが後々のシークエンスに効いて来る。

ホモの呼称と共に
思春期らしい無神経さを伴った、ステレオタイプな嫌悪感と共に
同級生たちが繰り広げる日常の会話。

或いは、BL好きの女性達が交わす
半分憧れを持った興味本位の会話。

その場に身を置き、カミングアウトをしていない
LGBTの人達は、どれほどやるせなさを感じているのだろう、と。

もっとも、二羽のペンギンですら
攻めと受けに例えて妄想を展開する腐女子の発想力には
正直笑ってしまったが。


また演出も細部まで行き届き、
一例を挙げれば、クラス会の場で、仕切る担任が腕を組んでいるなどは
その最たるところ。

彼の所作の裏には、どのような感情が潜んでいるのか?


しかし、本作の白眉は、全校集会での
『紗絵』のひとくさりだろう。

〔スミス都へ行(1939年)〕の名演説に比べては行きすぎかもしれないが、
思わず涙してしまった。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


以前よりは多少はマシになっているのだろうが、
LGBTのイマイマのありように踏み込んだ真摯な一本。

加えて、人同士の結びつきって、
より深いところで可能なのだと、改めて微笑ましく観ることのできる
最後のシーンが爽快だ。