RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

護られなかった者たちへ@TOHOシネマズ日比谷  2021年10月2日(土)

封切り二日目。

席数120の【SCREEN8】は満員の盛況。

みんな緊急事態宣言の解除を
待ちわびていたんだねぇ。

だからといって、以前より安全が保障されているわけじゃあ
ないんだが・・・・。

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ここ最近の『瀬々敬久』はノリに乗っている。

友罪(2018年)〕は評価しないもの
〔楽園(2019年)〕
〔明日の食卓(2021年)〕
そして本作と、社会の問題をえぐる作品を撮らせたら
抜群のキレ味を発揮する。


まぁもっとも今回は、『中山七里』の原作の良さにも助けられたのだろう。

日本の生活保護制度の歪みを、東日本大震災に絡め、
更には謎解きの要素も付加して極上のミステリー仕立て上げている。


コトの発端は震災から九年後の仙台市内で
身体の自由を奪われ、口も塞がれ、結果
乾きと飢えで亡くなった死体が連続して発見されたことに始まる。

二人が一時期、市内の同じ福祉保健事務所で働いていたことが判明し
捜査陣は色めき立つ。

生活保護受給のトラブルによる怨恨がその動機と見て捜査を拡大、
その線上に放火の前科がある『利根泰久(佐藤健)』が浮かぶ。

宮城県警の『笘篠(阿部寛)』は『利根』を追いつつも
その周囲を捜査するうちに釈然としない思いにとらわれ出す。


勿論、その疑念は、観客である我々にも共有される。

殺害された二人の職員は、
仲間内からは気立ての良い人間とされていたものの、
生活保護の申請を却下された者達からは、
真逆の目で見られていたこと。

或いは『利根』の生い立ちや、震災後の人間関係を勘案した時に
彼は本当に犯人なのだろうか、よしんばそうだとしても、
動機の真性はどこにあるのだろうか、と。


もう二十年ほども前だろうか、
「自己責任」との単語が国の責務を放棄する便利な言葉として使われ出したのは。

それ以降は法律も、先ずは「自助」次いで「共助」、最後に漸く「公助」と
国家としての存在意義を放棄する方向に整備される。

下々の者が営々と納め続けて来た税金や保険料は、いったい
どこに消えてしまったのか?

遵法で行動すれば、多くの困窮者を切り捨ててしまうとの
前面に立つ担当者の懊悩は深い。


本編の登場人物達の多くが、震災により肉親を亡くし
家を縁を失ったとの設定。

なのでここでは「お前に何が判る」との科白は
まるっきり無意味。皆、同じ土俵の上に立っている。

一方で、法改正や国との軋轢に悩む福祉保健事務所の職員には
震災後の混乱が更に重くのしかかる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


問題提起と謎解きの要素を上手く絡めて
物語りは進行する。

脚本も兼ねた『瀬々敬久』は
原作とは設定をかなり変えているよう。

しかしそれが作品のテーマやトリックの価値を
損なうことにはなっていないのはたいしたもの。