RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

Arc アーク@チネチッタ川崎  2021年6月26日(土)

封切り二日目。

席数244の【CINE6】の入りは一割ほど。

f:id:jyn1:20210628072237j:plain

『山田鐘人/アベツカサ』による〔葬送のフリーレン〕では
悠久に近い時を生きる「エルフ」の魔法使いが主人公。

彼女の前では人間の一生など、目の前を通り過ぎる落ち葉にしか過ぎない。

しかし、そういった特性は
感じ方や他者への接し方にどのような影響を及ぼすのか。

神の視座には近いものの
けして不死ではない、不確かな存在。

感情移入や生殖への欲求は極めて薄くなり、
では生きることの目的を何に求めるか?

類似の設定は『山下和美』の〔ランド〕にも見られ
アンチエイジングのみならず百年を生きることが可能になった現代に於いて
繰り返し表現されるテーマなのかもしれない。


本編の原作は『ケン・リュウ』による〔円弧(アーク)〕で
短編小説と聞く。

それを130分近い尺に引き延ばしているためだろう、
全体的にかなりの冗長さを感じる。

加えて社会的な設定や技術は仔細に描写されるのに
主人公の心の揺らぎがどうにも捉え難い不思議な構成にも戸惑う。


冒頭、十七歳の『リナ(芳根京子)』が
生んだばかりの我が子を病院に置き去りにし
姿を消す。

そこには何の未練も躊躇いも見られず
感情が消失したような印象さえ受ける。

その後、師となる『エマ(寺島しのぶ)』や
彼女の弟の『天音(岡田将生)』と関わりながら
不老の技術を受け入れる選択をするのだが
主人公の心情がもやっとし、どうにも掴みどころがない。

「プラスティネーション」と名付けられた
遺体を生前の姿のまま保存する技術や、
依頼する人々の想いは微細に描かれるのに、
それに対する『リナ』の心情が今一つ明快には語られず。


それは不老の体を得た後でも同様。

一方ではそうとはならぬ選択をする人々も存在し
彼ら彼女らの思考は、先と同様、
ドキュメンタリー風に多く表現されるも、
主人公がそれにどのように感化されるのかがどうにも判り辛い。

モノクロに変わった画面が
何らかの示唆をしているともとれるが
その受け取り方はあくまでも観客の側に委ねられている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


やはり直近の〔JUNK HEAD〕でも
同様の世界観は提示される。

パンデミックには極端に弱くなってしまった社会構造は
果たしてユートピアなのか。

小難しい暗喩を多用しなくても
直截的に見せてくれる表現の方が
個人的にはより好ましいのだが。