RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ミセス・ノイズィ@TOHOシネマズ日比谷  2020年12月12日(土)

封切り九日目。

席数98の【SCREEN2】の入りは七割ほど。

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目に見えること、自分が体験したことは
あくまでも主観であり、
全てが正で実際にあったこととは限らない。

一枚の写真でさえ添えられるキャプションによって
どう見られるかは変化、
受け取る印象が真逆になる場合も。

本編にもそれに近しい描写があり、
怖いなぁと思わせる。

もっともそれは、人間が恣意的に
意図に基づき行っているのだが。


一方の主人公『真紀(篠原ゆき子)』のプロフィールはありがち。

初期作こそ激賞されたもののその後は鳴かず飛ばず
スランプが永く続いている小説家。

家族の事情もあり、賃貸アパートに越して来たものの、
隣人がたてる騒音に悩まされることになる。


書いても書いても認められない小説。そのうちに
力を伸ばして来た後続に怯え、はかどらない文筆にいらいらとする毎日。

幼い娘は聞き分けがなく、ミュージシャンの夫は家事・育児に非協力的、
加えて執筆しようとするとそれを邪魔するように聞こえる隣家からの騒音。

しかしその何れもが『真紀』の一人称的表現であり、
傍目からはどうなのか?


もう片方の主人公『美和子(大高洋子)』は隣家の先住者で騒音の張本人。
朝も早くからばんばんと盛大に布団を叩く音をさせ
それが『真紀』を苛立たせる。

しかし、待てよと、思う。

同じ音は上下や反対側の住人も聞いているはずなのに、
クレームになっている気配はない。

何故だろう?
そしてそこにこそ事象を解く鍵が隠されている。


娘の『菜子』が懐いてしまったことで不愉快さにも拍車が掛かり、
隣家との関係は膠着状態に。

きりきりと余裕のない生活が『真紀』をあらぬ行動に駆り立てる。

一連の出来事をモデルに〔ミセス・ノイズィ〕題した小説を発表することで
逆襲に出る。

これが特に若い層に絶賛され受け入れられたことから
事態は思わぬ方向に転がり出す。


物事には表と裏があり、一面的では判らない。

自身の解釈だけで見ていると、けして気付くことないことがあるとの示唆も
説教臭くない描写で見せてくれるのが好ましい。

次は何が起こるだろうとのサスペンス的な盛り上げ方も堂に入り、
泣かせるというよりも、心を震わせるケリの着け方も練れている。

時事的な問題も上手く取り込みつつ
トータルコンセプトアルバムさながら
ABの両面で初めて成立する物語りの組み立ても、
それを補強するカメラや編集も上々の出来。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆☆。


まだ数本の長編ながら、『天野千尋』監督の才気を感じる一本。

ただこの後、〔カメラを止めるな!〕みたいにならなとよいけれどと、
それだけが心配。