封切り二日目。
席数127の【シアター2】は満員の盛況。
「NHK」の「映像の世紀バタフライエフェクト」、
2024年2月19日の放送は〔マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪〕。
本作の良い予習になると同時に、
幾つもの感嘆すべき内容が。
一つは国家を挙げてのプロジェクトだけあり、
多くの映像が残されていたこと、
もう一つは本作でも同様のシーンが再現されていたこと。
最近流行りの『キリアン・マーフィー』の主人公への激似さは驚きも、
『クリストファー・ノーラン』は
脚本や監督にあたり、過去の映像をつぶさに確認し
印象的な場面を援用したのだろう。
が、個人的にもっとも嘆いたのは
兵器開発のために、砂漠のド真ん中に街を一つ造ってしまうだけの力のある国に
戦争を仕掛けた当時の大日本帝国の指導層の判断なのだが。
二つの物語りが同時並行で描かれる。
一つは「原爆の父」とされる『ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)』の盛衰
(このパートはカラーで)。
もう一つは彼に(最終的に)敵対し引きずり降ろそうと画策する政治家
『ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)』の暗躍(こちらのパートはモノクロで)。
『オッペンハイマー』の造形はエキセントリックで女好き。
それが先々の禍根を生むことは明白ながら
ずぶずぶと男女の関係を結ぶ。天才にありがちなタイプではある。
『ストローズ』は私怨に近い感情から
絶頂にある『オッペンハイマー』を「赤狩り」を利用することで排斥し、
その機に乗じ、更にのし上がろうとする。
味方と思っていた人間の裏切りを共に味わい、
それが濃厚なドラマとなり昇華する。
ここで思い出されるのは、
〔イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 (2014年)〕
での『アラン・チューリング 』。
戦況を変える偉業を成し遂げた彼は
同性愛が元で国から捨て去られるように41歳で死去する。
国家の非情性が二人に重なって見える。
三時間の尺を使い、エピソードもふんだんに盛り込み、登場人物は多数。
目まぐるしく変転する画面に、とても頭の整理や理解は追いつかない。
ため、人名を紐付けるのは中途から諦め、
シーン毎に記憶を呼び起こすことに専念し対応する。
それでも各人の役割が不明朗になる瞬間もあり、
もっと枝葉を整理することはできなかったのか、との
恨みは残る。
ナチスに先んじることを第一義に「マンハッタン計画」に邁進、
「トリニティ実験」を成功させた瞬間の高揚感。
一方で、自身が生み出した大量破壊兵器が実際に使われる段になり、
その威力に畏怖する科学者や愛国者を離れた人間臭さを垣間見せる言動。
同時に、当時ですら、原爆の投下に反対し
署名活動まで行った識者がアメリカ国内に存在したことは
僅かながらの無聊となる。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
劇中で語られる、
『スターリン』が日本への原爆投下を望んだとのエピソードは、
8月8日のソ連対日宣戦布告を見据えてのものなのだろう。
今も変わらぬ同国の狡猾さと共に、
『クリストファー・ノーラン』がそこまでの意図を組み込んだのかは
気になるところ。