RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

枯れ葉@109シネマズ川崎 2023年12月30日(土)

封切りは12月15日~も、
標題館での公開は今日が二日目。

席数89の【シアター8】の入りは七割ほど。

 

 

フィンランドの首都ヘルシンキ
スーパーの店員として暮らす『アンサ(アルマ・ポウスティ)』は
期限切れで廃棄すべき商品をくすねたことが原因で失業。

そして同時期に、工事現場で働く『ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)』とカラオケバーで出合い、
二人は互いに一目惚れ。

しかし『ホラッパ』はアル中。
職務中の飲酒がバレ、次から次へと転職を繰り返すさ中。

共に厳しい現実に直面する二人の恋の行方は・・・・と、
プロットだけを追えば典型的な{ボーイ・ミーツ・ガール}。

しかし、主人公の二人の年齢はどう見ても四十歳近くで
立派なおばさんとおじさん。

それでも、しっとりとした{ラブストリー}を成立させてしまう、
監督・脚本の『アキ・カウリスマキ』の手腕には敬服。


81分尺の小品。

ため、科白を切り詰め説明を省略し、
シーンを巧みに繋ぐことで極上の短編に仕上げる。

あまりにそっけなさ過ぎて、
言葉による説明過多の直近の邦画に慣れてしまうと
かなりの物足りなさを感じてしまうのでは。

が、背景も含め淡々とした描写が独特の雰囲気を醸す。


二人の現状を判らせる、冒頭のシークエンスはとりわけ見事。

ほんの短い時間で労働者が体よく使われている社会の状況と、
空虚な生活を見せ、
これで鑑賞者は一気に感情移入。

また、本編の舞台は現代。
ラジオから流れるロシアのウクライナ侵攻に関するニュースの
日本での報道内容とは随分と異なることの驚き
(陸で国境を接する国の論評は違う)。
意図的に病院を攻撃するのは、社会の混乱を目論むロシアの常套手段である、
などを聞けば更に厭世的な気分になろうというもの。


そこに1960~80年代の音楽もたっぷり盛り込み
(中には〔竹田の子守歌〕もあり)、
最後にはタイトル通りの〔枯葉〕に持っていく巧さ。

人生の秋に近くなって咲いた恋でも、
まだまだ先の幸せを期待させるとの。


そしておそらく
監督が偏愛するであろう映画の数々が
ポスターに仮託し貼られている。

若者のすべて/Rocco e i suoi fratelli(1960年)〕
気狂いピエロ/Pierrot Le Fou(1965年〕は印象にも残るが
初めてのデートで観る映画が
ジム・ジャームッシュ』の〔デッド・ドント・ダイ(2019年)〕
なのには笑ったが。

ひょんなことから『アンサ』が飼うことになった犬の名前が
チャップリン』なのも、
「放浪紳士」は最後は概ね、
背中を向けて去るのを想起させもする。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


古き良き時代の映画へのオマージュも
随所に感じるところ。

本作もよりドラマチックな要素を付加すれば
十分にそうした作品群と近似する。

登場する映画館の名前が「Ritz」なのは
皮肉な名称にも思えるが。