RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

PERFECT DAYS@チネチッタ川崎 2023年12月23日(土)

封切り二日目。

席数244の【CINE6】の入りは九割ほど。

 

 

渋谷区の公衆トイレ清掃員として働く『平山(役所広司)』の日常は
判で押したよう。

目覚まし時計に頼らず、
陽の明かりと近所の老婆の竹箒の音で目覚め
身だしなみを整えユニフォームに着替え
アパート前の自動販売機で缶コーヒーを買い車に乗り込む。

車の中ではお気に入りの曲をカセットテープで再生。
スカイツリーを眩しく見やる。
現場に着けば持ち場の掃除を卒なくこなし、
決まった神社の境内でサンドイッチと牛乳の昼食。

時としてトイレの利用者や、
同じ場所・時間で交差する人々との微かな交流はあるものの、
互いに深入りすることはない。

業務が終われば地元の銭湯でひとっ風呂。
馴染みの居酒屋で軽く呑み食いし、
就寝前には読書も欠かさない。


仕事が休みの日は溜まった洗濯でコインランドリーに。
古本屋で本を買い、撮った写真の現像にカメラ屋へ。

その日の〆は歌の巧いママが居るスナック。
五~六年も通うそこのママには
ほのかな恋心を抱いたりもする。

そしてまた明日からは仕事の日々が始まる。


『平山』は五十を過ぎ、妻も子もいない。

驚くほど寡黙で同僚とも必要な会話以外はせず、
自身の素性を語ることもなし。

仕事ぶりは至極丁寧。
清掃用具を自分で工夫し造ることも。

とは言え、若い女の子にチュッとされれば嬉しい。
その日は一日上機嫌だ。


そんなルーチンを乱す出来事が。

しかし日々の行動が変わっても
怒るよりも、どちらかと言えば楽しんでいるよう。

が、それが図らずも主人公の過去をあぶり出し、
万感のラストシーンへと繋がる。


彼の行動原理は
宮澤賢治』の〔雨ニモマケズ〕を思わせる。

そして、下町然とした地域での人々のかかわりは、
水魚の交わりのよう。

こうした純日本らしい風俗を
外国人の『ヴィム・ヴェンダース』が描き出したことに
先ずは驚く。

取り立てての事件が起きるわけではない。
日々は淡々と過ぎて行き、
また明日も、昨日と同じような一日になるだろう。

それでも、それを善しとして、
楽しむ心構えが『平山』にはできている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


最近とみに増えて来た
イカラなトイレ群の背景はこうなっていたのね、との
清新な発見。

勿論、それを支えるソーシャルワーカーの人たちにも
思いは及び、
(今でもそうだが)この先は、あだやおろそかには使えない。

そうしたことに気づかせてくれた監督の視線の細やかさにも
改めて感嘆する。