封切り四日目。
席数407の【CINE11】は、ほぼ満員の盛況。
中には小学校低学年の子供を連れた親もおり、
彼等がどのように本作を観たのかは気になるところ。
2013年の「引退宣言」を撤回しての『宮﨑駿』の十年振りの新作は、
前宣伝無し、チラシも無し、パンフレットさえ後送。
事前に公開されたのはポスター用のビジュアルが一点のみと
イマイマでは異例の「逆」プロモーション。
情報さえあれば、
行きたい・行きたくないの判断をきちんとすることができるのに、
それが叶わぬ本作では、様々な感想が飛び交うことは容易に想定。
言ってみれば、『宮﨑駿』に対する自己の勝手な事前期待と
それがどの程度充足されるかにより
鑑賞後の満足度は大きく揺らぐハズ。
自分にとってのここ四十年の「宮崎作品」は
ほぼほぼが「女の子がお掃除をする」オハナシ。
勿論、その「掃除」には大小アリ、
地球規模から自分が住まう予定の部屋まで様々。
ただ、それによって彼女達は、成長への階段を一歩上がるのは共通、且つ
鑑賞者がカタルシスを得る点に於いても。
翻って本作の主人公は少年。
また、舞台は第二次大戦中の日本と特定されている。
東京への空襲で母親が入院している病院は焼けてしまい、
『牧眞人』はこの上ない喪失感を味わう。
それを機に母親の故郷である疎開するのだが、
そこには彼女の妹『ナツコ』が住まう古い屋敷が。
地元の名士でもある旧家には、
昔から不思議が起こると言い伝えられ、
少年は否応なく、いや明らかに自分からその渦中に飛び込んでいく。
主人公の性格は直情、物おじをせず意志も強固。
怖いもの知らずで知性も高く臨機応変。
一方で身内や使用人にも優しい心根を見せる。
ただこれは、過去の女性キャラの総和を男性に変換しただけで、
成長も含めて変化は見られぬ。
ドラマの前半部はリアル。しかし中盤以降、
一気にファンタジーの世界になだれ込む。
その仕掛けが如何にも『宮﨑駿』らしいものの、
場面場面を見れば、過去作品のコラージュとしか思えぬものが大半で既視感がありまくり
(含む〔ルパン三世 カリオストロの城(1979年)〕)。
また、『柳田國男』の〔遠野物語〕からの借用、
〔2001年宇宙の旅(1968年)〕を思わせるシーンもありで、
全体的に新しさが見られない。
「わらわら」が天に昇るシーンですら
タイ・チェンマイの「コムローイ祭り」で、
加えて〔塔の上のラプンツェル(2010年)〕で観てはいなかったか。
二重螺旋で上がって行くのは新機軸だが。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
とは言え、初期作の〔パンダコパンダ(1972年)〕を思わせる
不条理な世界観は個人的には好ましい。
また、大団円の場で、お手伝いの老婆達が皆々得物に掃除道具を携えていたのには
思わず笑ってしまった。