RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

赤沼潔退任記念展−Rebirth−@東京藝術大学美術館 陳列館 2022年11月6日(日)

 

【陳列館】入り口前の通路に並んでいた贈花の数にも驚いたが、
それにも増して【1階】~【2階】の階段に並べられていた、
やはり贈り物の酒の量に驚かされる。

各段にびっしりと、更に踊り場を越えて上まで続く。
どれだけの呑兵衛と認識されているのか・・・・、ご当人は!

既に作品を鑑賞するよりも、
それだけで毒気に中てられてしまっている(笑)。


並んでいる多くの鋳金は、
過去に観た記憶のあるもの。

音符のような、ぽってりとしたフォルムは、
もっと巨大なオブジェ然として、
何処かの施設に納まってなかったかしら?


会期は~11月13日(日)まで。


その頃には、お花は枯れているだろうけど、
酒の絶対量が増えているのか減っているのかが気になる。

窓辺にて@109シネマズ二子玉川 2022年11月5日(土)

封切り二日目。

席数155の【シアター1】の入りは五割ほど。

 

 

愛しているハズの妻の浮気を知っても、
怒りや嫉妬の感情が湧いて来ない自分に戸惑う男は
〔ドライブ・マイ・カー〕でも描かれたコトの発端。

かと言って、意趣返しに自身も浮気に走るでもなく、
恬淡とした心の内にただ戸惑うばかり。

今時らしいモチーフではあるものの、
実際には昔からある出来事なのかもしれない。


本作では、三組のカップルの関係性が描かれ、
それは蜘蛛の巣に張り巡らされた糸の様に
粘っこく各々を捉え離さない。

静かな筆致の中に男女の愛情の本質と
共に暮らすことの意味を軟らかく語りきる。


『市川茂巳(稲垣吾郎)』は新人賞を獲り、
将来を嘱望された作家ながらも
何故か突然に筆を折ってしまった過去が。
にもかかわらず、今でも「書くこと」を生業にすることからは逃れられず。

小説を書けなくなったのではなく、
自身が望んで書かなくなった理由は判然とはしないものの、
他の人の口を介して語られたそれは
私小説」を書く者にとって本来ならば苦渋の決断。

にもかかわらず、生来の性格の為か、
傍目にはそうとは見えぬのは、
身を削るように書くことで我が身を表現する「私小説家」の行き着く先は
太宰治』が体現したような破綻と本能的に分かっており、
恐れているのかもしれない。


三組の男女は、何れも女性の方の惚れ度合いが強いかのように
ちょっと見には思え。

が、実際は男性の思いがより強固なのに、
要はその表出のさせ方が下手なため、
要らぬ混乱を招いてしまう。

過去をぐっと吞み込んで元の鞘に納まる者、
或いは昔に囚われずに新たな関係性を築く者と結末は様々。

40代・30代・10代の夫々の男女の形が
世代を交差した隙の無い表現で綴れられる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


キャスティングの妙が、本作には著しく奏功。

玉城ティナ』の小悪魔的なコケティッシュさが効果的で、
惡の華(2019年)〕に匹敵する出来。

そんな高校生(役)の彼女を前にして、
理性を失わずに正面から向き合う『茂巳』を演じた『稲垣吾郎』は
情感が薄いイメージがぴったり。
十三人の刺客(2010年)〕の酷薄さも良かったが、
本作はそれ以上の嵌り具合。

 

YOSHINO ART CONNECT@スパイラルガーデン 2022年11月3日(木)

ローマ字で書かれていると、
なんのこっちゃ?となるけれど、
サブタイトルを見ると一目瞭然。

「吉野石膏美術振興財団在外研修助成採択者成果発表展」

 

「タイガーボード」で有名な、あの「吉野石膏」が
こうした美術助成をしている、と。

なので、作品名や作者プロフィールが書かれているパネルは
石膏ボード(或いはそれを模したもの)なのね。


計十一名の作品が展示され、
例えば『興梠優護』などは
既にサポートが不要なのではとも思ったり。

『大久保如彌』の〔Stay Away From the outside・・・〕は
根っこに在る部分は「TWS」で初めて観た頃と変わらぬのに、
表現の奥行きが随分と出て来たな、とか。

『小野有美子』の〔葉のその先、未知のその先〕を観ては、
フェルメール』の〔小路〕を思い出してみたり。


会期は~11月14日(月)まで。


写真新世紀 30年の軌跡@東京都写真美術館 2022年11月3日(木)

やはりこちらも観ておかないと、
画竜点睛を欠く。

 

「写真ができること、写真でできたこと」の
サブタイトルは共通。

 

先の展示は、
歴代グランプリ/準グランプリからのセレクション。
こちらはそれにはかかわらず、計九名の作品が並ぶ。
ほぼほぼ「優秀賞」も、
中には「特別賞」が一人いて、
それが『澤田知子』。

添えられたキャプションには
制作時の一部始終が書かれており、
ちょっと読むとほぼほぼギャグも、
よくよく反芻すれば、かなり狂気に近い行為だったことが判る。

ある意味、芸術を行為する者には、
必須の心ではないかと。

凡百の人間には、それがハナから欠けている。

 


蜷川実花』や『青山裕企』、『大森克己』も
本展から巣立っていったのだと、
改めて思い出す。

とりわけ『蜷川』は映画の世界にも足を踏み入れているのだけど、
これほど毀誉褒貶の多い作品を撮る人も珍しい。

どこにでも居る「アンチ」が、この人に対しては
とりわけしつこく絡むのも、何とも不思議。


会期は~11月13日(日)まで。

 

2021年度(第44回公募)グランプリ受賞者『賀来庭辰』の新作個展〔夜〕も
同時開催されている。

MONDAYS@チネチッタ川崎 2022年10月29日(土)

封切り二日目
(一部劇場では10月14日~先行公開)。

席数191の【CINE10】の入りは四割ほど。

 

 

今となっては日本を代表する超大企業の会長に納まっている方も
二十数年前は一介の部長職だったわけで、
ご当人と酒の席で話している時に
週休三日になったら何曜日を休むか、との話題になり
多くの人が「水曜」「金曜」と答える中、
ご当人は「月曜」と答えていたのが印象的。

それが「最も得した気になる」とのことだが、
仕事を楽しそうにこなし、卓越した実績を上げて来た人間でも
そんな思いがあるのかと、意外に感じた記憶。

まぁ〔憂鬱な月曜日〕との楽曲や
サザエさん症候群」なる言葉もあるくらいだし。


本作は手垢の付いた{タイムループ}ものでも、
調理の仕方でまだまだ面白い一本が造れるとの可能性を提示した
{ワンシチュエーション・コメディ}の秀作。

83分の短尺ながら、そこで描かれる内容の密度は濃い。


そもそも「タイムループ」の渦中に居る人間が
どうしてそれに気づくのかは、かなり重要な命題。
漫然と日々を過ごしている人間であればとりわけ。

ましてや今回の舞台は、
土曜日も日曜も無いほど業務に忙殺されている下請け制作会社。
事務所に泊まるなどは日常茶飯事で、
一週間のメリハリを感じられぬ日々を社員たちは過ごしている。

そんな中、最も早く「タイムループ」に気付いたのが、
そこから一番離れた業務の人間との設定は示唆的。


「このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」との副題にあるように、
気付いた人間は周囲を少しずつオルグしながら
「気付き」を敷衍して行くのだが、
そこで行われる「企業あるある」なサラリーマンのヒエラルキーを揶揄した表現や、
いかにもクリエィティブな集団らしい、
PPを使用したプレゼン形式の手法には大笑い。

代理店と制作会社、下請け・二次請けとの関係性も
皮肉に描きながら、とは言え実態を知っている側は
身につまされつつも爆笑をしてしまう。


一人の男の妄念が、
全世界的に同じ一週間をとめどなく繰り返させるループを作り出す
負のエネルギーの恐ろしさ(笑)。

とは言え、そこはかとないペーソスさも漂う終幕にはほっこり。

怖気をふるうと共に、
後悔の無い日々を過ごすことの重要性にも
改めて気づかせてくれる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


主役を演じた『円井わん』は勿論、
物語の鍵となる部長役の『マキタスポーツ』が激しく嵌り役。

いるよねぇ、業界にはこういった風体でノリの人が。

 

天間荘の三姉妹@109シネマズ川崎 2022年10月29日(土)

封切り二日目。

席数118の【シアター3】の入りは三割ほど。

 

 

「天間荘」は天上と地上の狭間に在る
古風な宿屋。

そこは臨死状態にある人の魂が辿り着き、
疲れを癒しながら、天上に旅立ち死を迎えるのか、
それとも地上に舞い戻り再び生きる決意をするのかを決める一時投宿の場所。

しかし、滞在期限は決められておらず、
随分と長い間逗留する人も居る様子。


そんな場所にある日
『小川たまえ(のん)』がやって来る。

彼女が何故臨死になったかは触れられぬが、
既に「天間荘」で働いている二人の姉妹の
腹違いの妹であることが冒頭に示される。


ここで我々の世代は、最早ニヤリとしてしまう。

彼女等の名前って
〔欽ちゃんのどこまでやるの!〕の三つ子の設定だよね?

原作者の『髙橋ツトム』も同年代でしょ(笑)。


さはさておき、
では宿屋の人々、或いは「天間荘」が在る町「三ツ瀬」の住人は
一体どのような境遇なのとの疑問は当然の如く湧き上がる。

これにも幾つかのヒントはあり、
中途で「ははん」と思い当たるのだが、
やはりその設定は相当に切ない。


物語は、「天間荘」で働くことになった『たまえ』が
自身と同じ境遇の人達と触れ合う中で、
生きることの意味と価値を見い出して行く。

積み重ねられる幾つかのエピソードは、
一見して不幸な境遇に置かれている当人はそう感じていなくても、
実は周囲には自分のことを慮ってくれる人が多く居ることを
改めて提示する。

かなりの長尺のこともあり、
それに纏わるお話は十分に過ぎるほど語られるわけだ。


世に「天寿を全うする」との言葉がある。

「長生きをする」とか「病気や事故でなく自然死する」の意との認識も、
長命でなくとも、また突然断ち切られた命であっても、
それまでの時間をどう濃密に生きたのかが
その人が存在した証になるし印象付けるとの想いを改めて強く持つ。

生きている人に記憶されている限り、
亡くなった人間の二度目の死は有り得ないのだから。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


最近駄目な中年が板に付いて来た『永瀬正敏』を除けば
本作はほぼほぼ女優さん達を愛でるための一本。

老いも若きもバシバシと演技に火花を散らし
鑑賞する側はなかなかの眼福の二時間半。

写真新世紀30年の軌跡展@キヤノンギャラリーS 2022年10月22日(土)

「写真ができること、写真でできたこと」との副題が付されている。
会期は~11月22日(火)まで。

キヤノンギャラリー 写真新世紀30年の軌跡展-写真ができること、写真でできたこと|キヤノン


同タイトルの展示は
東京都写真美術館」でも~11月13日(日)まで開催されており、
当然、そちらも観ておくべき。

 

 

で、標題館では
1992~2021年までのグランプリ/準グランプリ受賞者から
31組の受賞作品が展示されているわけだが、
なるほど、例えば『澤田智子』は「特別賞」だし、
梅佳代』『本城直季』は「佳作」で、
その後の活躍とは必ずしも連動していないことが判る。


そして、会場に並んでいる作品を総覧した時に、
今でも強烈なインパクトと共に記憶に刻まれているのは
『須藤絢乃』の〔幻影 Gespenster〕。

自身が行方不明になった実在の少女に扮したセルフ・ポートレイトは
時間を閉じ込めているとの妖しさとともに、
彼女等の今がどうなっているのだろうとの
怖さにもにも似た感情が逆撫でされる。

例えアイディアとしては思い付いても、
これを実行するにはなかなかの勇気も必要ではないか。

とは言え、今回展示されている一枚だけではなく、
往時の21枚+αのスナップショットを
改めて観たいものだが。