RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ブルックリン@109シネマズ二子玉川 2016年7月10日(日)

封切り十日目。

席数84の【シアター4】は満員の盛況。


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まだ『ドジャース』がブルックリンがホームだった時代。
そして〔雨に唄えば〕が封切られた頃。

一人の少女『エイリシュ・レイシー(シアーシャ・ローナン)』が故郷のアイルランドから、
NY-ブルックリンへと大西洋を渡る。

最初の頃こそホームシックに枕を濡らす夜もあったが
持ち前の向上心から次第に自身を引き上げ、
見た目も都会の女性として洗練されて行く。


まず驚かされたのは、戦後のこの時期になっても
多くのアイルランド人がアメリカを目指していたこと。

植民地支配によるイギリスとの軋轢は勿論あるにしろ、
経済的な関係は、よりアメリカに大きい、ということだろうか。


ヒロインの境遇について、本邦でも似た様な楽曲があることに思い至る。

太田裕美』の〔木綿のハンカチーフ〕や
谷山浩子』の〔カントリーガール〕の世界観。

男女が逆転したり、故郷を後にするのが逆だったりはするけれど、
心情としては近似だろう。


そして順風満帆に見えていた『エイリシュ』の都会での暮らしも
あるコトを契機に、一旦の帰省を余儀なくされたことから
様相が一転する。

そこで彼女は
ブルックリンに戻るのか、
それとも故郷で暮らすのかの選択を
迫られることになる。


イマイマの時代であっても
故郷を離れる人間の感情は
七十年前とそんなに変わらないだろう。

交通や通信の手段が発達しても
都会への憧れによる期待と開放感、
一方で故郷を捨てるような一抹の慙愧の念が入り混じる複雑な心境が相俟って。


本作では戸惑いながらも「都会の色に染まって行く」少女の心情を
最初の灰色の日々から、
手から零れ落ちる宝石の様にキラキラと美しい日常に変って行く様を
瑞々しく描く。

そして新たな人生を始めようとする
全ての人達にとってのエールでもある。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


ではあるものの、片方を選択することは
当然、もう一方を捨てること。

そのちくりとした苦い痛みについても
折にふれて思い出すことが
宿命付けられているわけだが。