封切り三日目。
席数142の【SCREEN1】の入りは六割ほど。
本年7月11日の「トランスジェンダー職員の女性トイレ利用制限」についての
あるいは10月25日の「性別変更の手術要件」についての最高裁判決からも分かるように、
この国での「LGBT」への見方も随分と変化か起きているよう。
とは言え、それは「LGBT」に対して、との
あくまでも括弧付きの事柄であって、それ以外についてはどうにも心もとない。
いみじくも作中で「多様性」について語られるように、
ある人の嗜好や思考を100%理解することは不可能なのに、
それを耳障りの良い言葉で軽く括ってしまっている。
また、「LGBT」についても、今でこそ追い風は吹いているものの、
いつ逆風に変わるかは判らぬのは、過去の歴史からも明らかだろう。
タイトルにある「正」が「性」でないのは、
言葉遊びではなく、人の欲望の対象は様々なことの象徴。
勿論、犯罪に結び付く欲望はあり得ないにしろ
個々人の興味の対象は、それこそ多様であって良い。
男女が結婚し、子を多く産むことのみが生産的との
ステレオタイプな思考は、頭が凝り固まった意見。
映画化された四本の『朝井リョウ』作品
〔桐島、部活やめるってよ(2012年)〕
〔何者(2016年)〕
〔チア男子!!(2019年)〕
〔少女は卒業しない(2023年)〕
は、何れも群像劇。
そして今回もそれは例外ではない。
登場する主要な三人
『桐生夏月(新垣結衣)』『佐々木佳道(磯村勇斗)』『諸橋大也(佐藤寛太)』は
共に無機物である「水」に並々ならぬ興味を示す。
他の人とは異なる嗜好を認識し、
それ故に生きづらささえ感じる。
その対極に検事の『寺井(稲垣吾郎)』が居る。
彼は我々の右代表であり、世間的な常識を体現する存在。
が、時として自己の独善的な意見だけを押し付ける煙たい人物、
直近で言われる正義と正義のぶつかり合いを見せられているような。
この二つの属性は
理解し合えることは
たぶん無い。
会話はどこまでも平行線で、
良識派には多数ではない好みを持つ人のことは理解不能だろう。
建前として「多様性」を口にはするものの、
それはあくまでも世間的にはやっているからとの
自分を理解のある風に見せる方便でしかないのだ。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
過去作とは違う横顔を見せる『新垣結衣』は印象的。
生々しく、時として底知れぬ暗ささえ感じさせる。
これは新たな境地と言えば良いのか、
それとも・・・・。