RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

6月0日 アイヒマンが処刑された日@TOHOシネマズシャンテ 2023年9月10日(日)

封切り三日目。

席数224の【SCREEN1】の入りは四割ほど。

 

 

アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男(2015年)〕の後日譚。

先の一本は終戦後アルゼンチンに逃れた『アドルフ・アイヒマン』を追う
ドイツ人検事『フリッツ・バウアー』の執念を描いたもの。

対して本作は『アイヒマン』の死刑執行に関わった人々を描く群像劇。

そしてまた、そのこととは直接に関係はないエピソードも
(勿論、ホロコースト批判にはなっているものの)挿入される
風変りな造り。

アイヒマン』の登場場面ですら、極めて過少だ。


原題は〔June Zero〕で、タイトルにもある6月0日の意。

時刻のずれを修正するための「閏秒」は
通常なら59秒⇒0秒となるところを
59秒⇒60秒⇒0秒と間に普通には無い1秒を挿入する。

それにも模し、
死刑制度の無いイスラエルで超法規的に
5月31日と6月1日の間の深夜に執行したことを表したもの。


ストーリーを構成する二つの軸は、
アイヒマン』を収監する刑務所の担当刑務官と
死刑執行後の死体を焼くための焼却炉の製造を委託された工場の人々。

アイヒマン』は国家の法の名の下に断罪されねばならず、
私怨で殺害されたり、裁判の最中に病死するなどはあってはならないこと。

それらを防ぐために、些細なことにも注意を払い続ける刑務官の日常は
傍目には滑稽に見えても、神経の消耗度合いはいかほどものだったか。


また、イスラエルでは火葬が禁止されているため、
そのための設備がそもそも無い。

下手に土葬をすればその場所が
「ネオナチ」の聖地となる可能性がある。

最終的に遺灰は、領海外に撒かれるとの周到さの一方
焼却炉を急遽造る依頼をするのだが、
その過程でのてんやわんや。

とりわけ、炉の設計図の元となったのが
ナチス」が多くのユダヤ人の死体を焼いたものと同じだったことは
何たる歴史の皮肉か。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


携わった多くの人々が歴史に名を残しているのに対し、
本作の狂言廻しの一人である少年の『ダヴィッド』は市井に埋もれてしまっている。

それを取り戻したいとの最後の挿話は
人間の性の深さを感じさせるもの。