RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

茜色に焼かれる@TOHOシネマズ川崎  2021年5月23日(日)

封切り三日目。

席数112の【SCREEN8】の入りは七割ほど。

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ちょっと前まで「日本一不幸な役が似合う女優」は
木村多江』に冠されていたわけだが、
直近の数作では、
まさに『尾野真千子』の為にあるような呼称。

前作の〔ヤクザと家族 The Family〕では、
些細な情にほだされ一夜の関係を結んだばかりに
とことん追い込まれて行くシングルマザーを、
そしてまた本作でも、自身には何の咎もないのに
抜き差しならない状況に堕ちて行く、やはりシングルマザーを演じ
まさに不幸の連鎖を体現。


が、今回のそれは、傍目からは既に詰んだ状況にもかかわらず、
本人はいたって気丈に見えるのがなんとも不可思議。

ただ、心の中には吐露できない黒い思いがわだかまり
それが時として噴き出す時に事件は起きる。


田中良子尾野真千子)』は突然の事故で夫『陽一(オダギリジョー)』を亡くし、
今では息子の『純平(和田庵)』を独りで育てる。

しかし、事故の慰謝料は放棄し、
脳梗塞で倒れて今は施設に入っている義父の入所料をも負担し、
あまつさえ、亡夫の愛人の子供の養育費まで払っているとの
かなり理解不能な状態。

何故そんなことになっているのかはおいおい語られるのだが、
ホームセンターのパートだけでは当然やりくりはできず、
風俗でも働くことで何とか生活費を捻出。

そして息子の方も、
その境遇が学校でからかいと苛めの標的に。


そんな『良子』にも夢はある。

子供の健やかな成長は勿論だが、
コロナ禍で閉めてしまった小さなカフェを再開すること。

そのための奮闘が、専ら彼女を取り巻く男共との関係性で
語られる。


とはいえ、ここに登場する男たちは、
ほぼほぼが腐っていると評しても良い造形。

自分のことを棚に上げ、逆に被害者面していたり、
不遇な彼女を便利に使うことしか考えていない。

その理不尽さは半端ではなく、
観ていて義憤を覚えるほどだが、いや待てよ、
多かれ少なかれ、誰でもこのような側面は持っているかも。

要は、水に落ちた犬は打てに近いような心根。
それが社会的には底辺に近い母子を更に追い詰める。

また、世間の決めたルールも二人を苦しめる。
彼女が息子と取り交わす、暮らして行く上での規範に
一方的に入り込むことで。

そしてここでの母親像は、
長澤まさみ』が〔MOTHER マザー〕との比較で
対極の位置づけ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


困窮する母子の日常を、真正面からドラマチックに描いたことは評価も、
社会的なメッセージの面からするとややもやっとした印象。

もっとも、本作は『尾野真千子』の演技について堪能する一本。
女優としての矜持も含め、全身でぶつけ、爽快さすら感じる。