RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

GEIDAI FACTORY LAB 2017~2021 −MATERIAL COMPLEX−@東京藝術大学美術館 陳列館 2021年9月26日(日)

f:id:jyn1:20210930080120j:plain

展覧会開催にあたっての辞は色々と書かれてはいるけれど、
要は金属であり、木であり、ガラスであり、
様々な素材を組み合わせ作成された成果物の展示。

実際に触って・動かして、
或いは参加型のインスタレーション的な作品も多く
なかなかに楽しい。

勿論、動作させた結果が、
思わず「?」となるものもあるのだが、
それはまぁご愛敬。

個人的には『大塩博子』の〔建前と本音〕が
なかなかのツボだったが。

 

会期は~10月4日(月)まで。


横尾忠則:The Artists@21_21 DESIGN SIGHT 2021年9月24日(金)

f:id:jyn1:20210929075813j:plain

 

【ギャラリー3】で~10月17日(日)まで開催中。


もっと早く行きたかったのだが、
週末は混雑が予想されるだろうと二の足を踏んでいた。

しかし飛び石連休の中日、加えて昼間でも

時間に余裕のある、学生と思しき年代の入場者が
思いの外多かったりする。


主催は「カルティエ現代美術財団」。

同、財団が『横尾忠則』に依頼した肖像画が139点
ずらりと並ぶ。

人物は「当財団の歴史を刻んだ人々へのオマージュ」と書かれているけれど、
人選にあたっては『横尾』の想いも相当加味されているのではと思う。


一筆書きの様に回遊し、
右回りでも左周りでも、最初に目に入るのは当人の肖像画

しかしタイトルは〔横尾忠則〕、〔セルフポートレート〕と違いがある。
それは何を意図したものか。


また、同一人物が二枚描かれているケースも。
森山大道〕を一例として、その理由は那辺にありや。

物故者も随分と並ぶも、
ルー・リード〕や〔パティ・スミス〕等の
自分たちの世代には懐かしい名前もちらほら。


油彩による表現は多様で、調子が一様でなく、
歩を進めるに連れ、思わぬリズムが感じられるのも楽しい。

杉浦非水 時代をひらくデザイン@たばこと塩の博物館 2021年9月24日(金)

f:id:jyn1:20210928075723j:plain

一般の入場料は100円。

会期は
前期:9月11日(土)~10月10日(日)
後期:10月12日(火)~11月14日(日)
となっており、一部展示替えがあるよう。


飛び石連休の中日とはいえ、平日の昼下がり、
さほどの混雑にはなっていないだろうと見くびっていたら、
どうしてどうして、場内はなかなかの人の入り。


『非水』のプロフィールは館内にも掲示されているけれど、
三越」の意匠のみならず、「響」「光」といった
煙草のパーッケージデザインも手掛けていたことが、
標題館が企画する理由の一つなのね。

しかし、煙草関連の展示は過少で、
店舗のそれや観光、或いは嘗て幾度となく目にした
〔東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通〕等のポスターが多く並び、
そのグラフィカルは表現は、今でもモダンな雰囲気を醸している。


吃驚したのは洋行の成果の展示パート。

藤田嗣治』とも親しく交わったようで、
島根県立石見美術館」から借り受けた〔アントワープ港の眺め〕なども展示されていたり。

また同時代人としての『岡田三郎助』『黒田清輝』の画が観られるのも眼福。


物量的にも並んでいる作品の幅広さも、
これがワンコインで堪能できるならとの
満足度の高さに直結している。

目力展 見る/見られるの関係性@板橋区立美術館 2021年9月24日(金)

f:id:jyn1:20210927072730j:plain

タイトルは上手くつけたものの、所謂
「館蔵品展」。

ため、過去に観たことのある作品が多く並ぶ。

しかし不思議なことに、
並べ方が変わり、解説も付けられると、
違った文脈が浮かびあがって来るから面白い。


代表例であれば、肖像画か。

横向きなら一方的に見られる関係性も、
正面を見据えていれば、その瞳は鑑賞者の側にも向けられ、
画中の人物は当然それを意識している。


同様に社会を見つめる「視点」としての価値も
当然存在する。

貧困や環境、或いは政治的なものに対する目。


シュールレアリスム}では、眼そのものを
モチーフとした作品も多いわけで、これは当初の想定通り多く並んでいる。


が、今回もっとも記憶に残った一枚は、
過去に何度も標題館で観た記憶のあるもの。

『新海覚雄』による〔貯蓄報国〕は戦中の
貯金をして国債を買って、戦費を捻出しましょうとの
国策に協力する人々を描いたもの。

プロパガンダ作品に近い印象も、
本来は望まずとも、世間の目があるから
表向きはその様に振る舞うケースも多かったろう。

しかし、このように空気を読んだ行いは、
往時に限ったことではなく。

繰り返し、歴史に刻まれている。


会期は~10月3日(日)まで。


マイ・ダディ@TOHOシネマズ川崎  2021年9月25日(土)

封切り三日目。

席数112の【SCREEN8】は
一席おきの案内なので実質56席。
その八割ほどが埋まる客の入り。

f:id:jyn1:20210926092938j:plain

 

聖職者が必ずしも聖人でないことは、
彼等による、特に性的虐待を描いた映画が
多く作られていることからも判るところ。

その闇は深いのだが、本作の主人公『御堂(ムロツヨシ)』も
日頃信者に対してしている説教とは
まるっきり真逆の行為に走ってしまう。

もっともそれは、自分の娘(正確には、
血が繋がっていないので、全くの他人)を救うためのもので、
先に挙げた人々が自身の欲望のままに起こした不埒な行為とは雲泥の差があるのだが。


白血病に罹った娘が化学療法で一度は寛解したものの再発、
次の治療は抗癌剤の投与と放射線の照射の後の骨髄移植しか選択肢が無くなった過程で
血の繋がりが無いことが判明する。

たとえ神父であっても、元々は一個の人間、
その懊悩はいかほどのものか。

ましてや、妻は八年も前に他界しており、
愛情が通っていたと信じていたのに、
その思いさえも打ち砕かれる強い絶望。


しかし、血の濃さよりも、一緒に過ごし愛情を注いだ時間の記憶が勝り
『御堂』は奮起、
実際の父親を捜し、ドナーとなって貰うために動き出す。

ここから先はある意味べたな、有りがちな、お涙頂戴の展開になるものの、
娘役の新人『中田乃愛』と、意外とと言っては失礼だが『ムロツヨシ』の熱演で
不覚にも涙が滲んでしまう。

勿論、場内は号泣の渦で、鼻水をすする音がそこかしこで聞こえ。


キリスト者として、周囲の人達に真摯に向き合って来た
主人公の人当たりの良さを印象付ける幾つかのエピソードも秀逸。

それがあるから、父娘の大事に、助けてあげたいとの気持ちも起きるわけで。


もっとも「TSUTAYA CREATOR'S PROGRAM FILM」の受賞作につきものの
脚本の緩さは本作にも散見。

とりわけ、妊娠期間の計算がイマイチ合わず、これが成立するためには
知り合ってから一ヶ月やそこいらで関係ができちゃわないとムリだよね、
神父のクセになんて手が早いんだ!と思ったりもするのだが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


最初はまるっきり関係のなさそうな二筋の挿話が、
あるタイミングで時空が統合され交差する。

この作り込みがかなり巧く、
テオ・アンゲロプロス』が〔旅芸人の記録〕で見せた、
一つの画面の中に二つ以上の時間軸を存在させる技法をさらっと援用している。

気付いた時には、なるほど!と、手を打つのだが、
こうした仕掛けも見どころの一つかもしれない。

 

空白@109シネマズ川崎  2021年9月23日(木)

本日初日。

席数118の【シアター3】は、一席空けての案内だと
実質70席弱。その八割ほどが埋まっている。

f:id:jyn1:20210925074942j:plain

 

売店での万引きの被害は甚大と聞く。
中にはそのために閉店や移転を余儀なくされるケースもあるらしく。

なので、自身が経営するスーパーで
女子中学生の万引きを見つけた『青柳(松坂桃李)』が、
彼女を追いかけたのは当然の行為。

唯一、想定外だったのは、それが原因で
彼女が飛び出し事故により亡くなってしまったこと。


娘の死を知らされた父親『添田古田新太)』は最初悲しみ、そして激昂し、
しかし見当違いの暴走を始める。

学校にはねじ込み、『青柳』にはストーカーまがいの付きまといをし、
車を運転していた女性が母親と謝りに来ても、徹底的に無視を決め込む。

自分の娘が万引きなど、との
根拠薄弱な思いや、よしんばしていたとしても学校でのいじめによるものとの
責任を他に転嫁する姿勢は、まるっきり共感はできず。

もっともそれは、自身が常日頃、娘と真摯に向き合って来なかった、
後ろめたさの裏返しかもしれない。


タイトルにもあるように心の空白を埋めるため
無軌道な行為を繰り返し、それが次第に周囲に悪影響を及ぼし出す。

加害者が被害者に、被害者が加害者に、
くるくると猫の目の様に、本作の登場人物達の立ち位置は入れ替わる。


無責任なマスコミも、それを助長。

センセーショナルな事件を常に消費し続けるため
文脈を意図的に捻じ曲げた映像を流し、
したり顔のコメンテーターはそれに同調。

その結果がどのような影響を及ぼすかも考えずに
数字を獲るためだけに作為を以って邁進する。


しかしあることをきっかけに『添田』の心情にも変化が訪れる。
描写的には軽くあるものの、それは自己の行為を正当化する理由付けを
根底から突き崩すもの。

が、決定的な証左を目の当たりにしても、傍若無人な半生を生きて来た彼が
すんなりと変われるはずも無く。

他方の『青柳』にも、落ち切った先から
這い上がる糧となる光明が。

それは強く励ましてくれたパートのおばちゃん『草加部(寺島しのぶ)』によるものではなく、
行きがかりの他人の何気ない一言。

必ずしも一方的な思いだけが
事態を好転させるわけではないとの、好事例にも見えるが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆☆。


しかし、こうした救いの少ない中にも
幾人かの真っ当な人物は登場。

『青柳』の元妻『翔子(田畑智子)』であり、
一緒に漁船に乗る『龍馬(藤原季節)』。

共に取り返せない過去を糧に、
先のことを考える。

物語りの中の一服の清涼剤。


そしてまた、
事故を起こした車を運転していた女性の母親が、
哀しいかな多くの人間の右代表なのだろう。

 

MINAMATA-ミナマタ-@109シネマズ川崎  2021年9月23日(木)

本日初日。

席数118の【シアター3】は、一席空けての案内だと
実質70席弱。その、九割ほどが埋まっている。

f:id:jyn1:20210924080237j:plain

 

ユージン・スミス』は間違いなく、
世紀を代表する写真家。

「マグナム」の正会員でもあり
〔楽園への歩み〕の様にメルヘンさえ感じさせる一枚も撮れば、
太平洋戦争にも従軍、サイパン硫黄島でもシャッターを切り、
沖縄では被弾をし重傷を、加えてその後一生苦しめられる後遺症も負っている。

戦争や公害に強い関心を持ち、終生
モノクロームでそれらを鋭く切り取った。


そんな彼があることをきっかけに「水俣病」のことを知り来日、
同地に三年間に渡り居住し、取材・撮影を行う。

本作ではそのコトの次第を盛り込み、
公害の悲惨な実態を強く訴えかけている。


現時点での「IMDb」での評価は7.8と高得点なのに比し、
「Metascore」は51の低評価。

評論筋には受けが悪く、
思うにこれは作品の構造そのものに問題ありとみる。

主人公とすべきは水俣の被災者であるはずなのに、
本来であれば狂言回しの『ユージン・スミス』の一代記のような語り口。


それはタイトルを変えてしまった方が良いくらいで、
主演の『ジョニー・デップ』がプロデュースにも名を連ねていることからも判るように
彼の想いが強く反映されたであろう内容になっている。

勿論、その写真が世界に大きく訴えかけたことは否定できないにしろ、
本当に描きたかったことは何なのか、首を傾げてしまう。


もっとも、多くの代表作での激しいエキセントリックぶりに比べれば、
はるかにまっとうにも見える人物造形。

熱演も相俟って、物語の世界に没入するのは容易。

特に、〔入浴する智子と母〕が示されるシーンでは、
私自身何度も観ている一枚でありながら、映画の登場人物達同様、
思わず涙が頬を伝ってしまう。

それほどインパクトに溢れた一葉を彼はどのようにして撮ったのか、
その答えも本作の中にはちゃんと盛り込まれている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


もっとも公害云々に関しては、エンドロールでその責をきっちりと果たしている。

裁判では勝訴はしたものの「水俣」の厄災は未だ終わっていないこと、また
それ以降も、政府や企業の怠慢により新たな人災が世界中で打ち続いていること。

実は本作での主要なテーマは、それだけでも十分に補完できているかもしれない。