本日初日。
席数118の【シアター3】は、一席空けての案内だと
実質70席弱。その、九割ほどが埋まっている。
『ユージン・スミス』は間違いなく、
世紀を代表する写真家。
「マグナム」の正会員でもあり
〔楽園への歩み〕の様にメルヘンさえ感じさせる一枚も撮れば、
太平洋戦争にも従軍、サイパンや硫黄島でもシャッターを切り、
沖縄では被弾をし重傷を、加えてその後一生苦しめられる後遺症も負っている。
戦争や公害に強い関心を持ち、終生
モノクロームでそれらを鋭く切り取った。
そんな彼があることをきっかけに「水俣病」のことを知り来日、
同地に三年間に渡り居住し、取材・撮影を行う。
本作ではそのコトの次第を盛り込み、
公害の悲惨な実態を強く訴えかけている。
現時点での「IMDb」での評価は7.8と高得点なのに比し、
「Metascore」は51の低評価。
評論筋には受けが悪く、
思うにこれは作品の構造そのものに問題ありとみる。
主人公とすべきは水俣の被災者であるはずなのに、
本来であれば狂言回しの『ユージン・スミス』の一代記のような語り口。
それはタイトルを変えてしまった方が良いくらいで、
主演の『ジョニー・デップ』がプロデュースにも名を連ねていることからも判るように
彼の想いが強く反映されたであろう内容になっている。
勿論、その写真が世界に大きく訴えかけたことは否定できないにしろ、
本当に描きたかったことは何なのか、首を傾げてしまう。
もっとも、多くの代表作での激しいエキセントリックぶりに比べれば、
はるかにまっとうにも見える人物造形。
熱演も相俟って、物語の世界に没入するのは容易。
特に、〔入浴する智子と母〕が示されるシーンでは、
私自身何度も観ている一枚でありながら、映画の登場人物達同様、
思わず涙が頬を伝ってしまう。
それほどインパクトに溢れた一葉を彼はどのようにして撮ったのか、
その答えも本作の中にはちゃんと盛り込まれている。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
もっとも公害云々に関しては、エンドロールでその責をきっちりと果たしている。
裁判では勝訴はしたものの「水俣」の厄災は未だ終わっていないこと、また
それ以降も、政府や企業の怠慢により新たな人災が世界中で打ち続いていること。
実は本作での主要なテーマは、それだけでも十分に補完できているかもしれない。