RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

川瀬巴水-版画で旅する日本の風景-@大田区立郷土博物館 2021年9月20日(月)

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前期:7月17日(土)~8月15日(日)
後期:8月19日(木)~9月20日(月)
で開催され、訪問日は後期の最終日。

ホントは当然前期も行きたかったんだけど、
情報を仕入れるのが遅かった上に都合が付かず・・・・。

それでも通期で合わせて400点が並び
しかも無料とくれば、行かない手はない。


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直近の『巴水』人気や、前述の理由もあってか、
開館間もない時間に入り込んだのに
場内は最早そこそこの人の入り。


展示されているのは版画は勿論乍ら
対になる写生帖も。

両者を見比べれば、写生の時点で既にして精緻な描写、
構図もびしっと決まっている。

その中に、「破」とでも表現すれば良いか、
人物を差し込んで面白さを表出していたり。

鮮やかな色調が目にも嬉しいが、
個人的には黒い夜よりも、蒼い夜の色調が好き。


これだけ画の巧い人だから、肉筆画も多くしただろうに
展示されているのは一枚のみ。

おそらく、受注制作は、発注者の元に秘蔵されているのだろうな。


それにしても『巴水』の展示は折に触れてされているようだけど、
これだけの物量を無料で見せてくれるなんて、
素晴らしい英断だぞ、大田区

 

 

 

コラボレーション企画展@龍子記念館 2021年9月20日(月)

標題館は二度目の訪問。
前回は常設展だったのだが、
今回は見逃せない企画あり。

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あの「高橋コレクション」とのコラボ展、タイトルも
川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠鴻池朋子天明屋尚山口晃―”
と冠され、皆々が好きな作家さんなので
一も二も無く駆け付ける。

一般の入場料は500円。


もっとも展示されてる招待作家の作品は何れも既見。

しかし、それが『龍子』の作品と重ね合わされると
また面白い意味合いが立ち上がって来る。

そのあたりはキュレーターの腕の見せ所だが
やはり白眉は戦争画のコーナー。

『龍子』の〔香炉峰〕と〔水雷神〕、
会田誠』の〔紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)〕が
三角形に配されたコーナでは
長きに立ち止まり、体をくるくる回しながら見入ってしまう。

何れも本歌があり、
しかしそこから派生した本作はもの悲しい波動しか感じられず。

その結果が『龍子』の〔爆弾散華〕に帰結するのだが。


それ以外の『鴻池朋子』『天明屋尚』『山口晃―』の作品にしろ、
やはり戦いを題にしたもの。

しかし本館の一番奥に置かれているのは
奈良時代の〔十一面観音菩薩立像〕であるのは
何とも示唆的だ。


会期は~ 11月7日(日)まで。

https://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi/exhibition?23564

マスカレード・ナイト@109シネマズ川崎  2021年9月19日(日)

封切り三日目。

席数246の【シアター1】は一席おきの案内なので
実質135席ほど。

それがほぼほぼ満員の盛況。

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原作は共に未読も、
そのトリックがあまり映像向けでないことから
「whodunit」よりも「whydunit」に、
また異色の相棒誕生の経緯と、そのハレーションが起こす化学反応の描写に
力点が置かれていた前作。

翻って今回は、いわくありげな登場人物を更に増やし、
それに有名どころを配する、red herringをより多くする造り。

共に制作サイドの腐心の後が見え隠れ。


とある殺人事件に関する情報提供が捜査本部に寄せられる。

その内容を信憑性ありと判断した捜査陣は、
「あの男」を呼び寄せる。

何故なら次の事件が起こると指定されたのは
またあの「ホテル・コルテシア東京」。

ならば名指しされるのは
『新田浩介(木村拓哉) 』以外にはありえない(笑)。


前回は指導役としてアサインされた『山岸尚美(長澤まさみ)』は
フロントクラークからコンシェルジュとなっており、
直截的には協力が難しい立場。

にもかかわらず、ずぶずぶと渦中に巻き込まれてしまうのは、
根っからの直情さに加え、客を第一に考えるスタンス、
或いは『新田』に寄せる思いもあるのかも。


ともあれ、この一風変わったバディの掛け合いの妙は健在で、
中には前作のエピソードを引用した場面も多々。
しかしそれを知らずとも面白さが損なわれることは無し。

顧客第一主義のホテル側と、事件を未然に防ぎたい
(且つ、犯人の逮捕もしたい)警察側と、
相反に見えながらも帰結は同一の目標が
次第に融合して行く様は観ていて心地良い。


トリックも動機も手法も二重の構造を構えており、
細かい点はほぼほぼ予測できたものの、
肝心の「誰が」の部分では予想もできぬ結末を提示され驚愕。

もっとも、逆に「何故」の部分では
後ろ付けが弱い印象で、これを両立させるのは至難だなと思ったり。

小さなものから大きなものまで、
伏線もしっかりと回収され、
観終わった後には間然とした気持ちが立ち上がる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


〔マスカレード・ホテル〕のラストシーンでは、
既に今回作の予告は示されていたわけで、
本作の大団円後の科白にも、
同様の意図が込められていると見るのが妥当。

ただ、原作は未だ刊行されておらず
(〔マスカレード・イブ〕は前日譚)、
どのような展開に持っていくのか?
マーケティング的な興味も尽きない。

第30回奨学生美術展@佐藤美術館

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招待作家=過去の奨学生、
特別出品=昨年度買い上げ、を含め
計十三名の作品が並ぶ。

なので、過去に観た覚えのある画もちらほら。


そんな中、『大島利佳』の〔華の現れ〕は
日常の一コマを瑞々しい感性で掬い取った一点と感心した記憶が甦りつつ
新たに制作された〔福を釣る〕は随分と幻想的。

真逆の方向性ながら共通のテイストを感じてしまうのが
作者の技量ということか。


『沖田愛有美』の〔始まりに向かう〕は四枚組の漆作品。
その上を幾頭もの蝶が乱舞し、その繊細な描写に思わず唸ってしまう。


『藤野麻由羅』の〔池泉回遊庭園〕も好きな描写。
パステルのような淡い色合い。
ざっくりと太い線で描き分けられた庭園は、
間違いなく常世に存在するはずなのに、
この世のものとは見えない情景。


それ以外の数点を含め、今年は随分と好みの作品が多く、
かなりの長居をしてしまった。


会期は~10月17日(日)まで。


 

交差点-いま、ここからの-@Bunkamura Gallery 2021年9月12日(日)

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”Part2”にもやって来た。
会期は9月8日(水)~15日(水)の八日間。


計八名の作品が展示も、
驚いたのはそのほとんどに赤〇シールが付いていたこと。

除く、値付けが高い大作、なのだが、
『仲衿香』の二点も、きっちりと売約済み。


また『新宅加奈子』は面白い販売方法を取っており、
計10のエディションの売れ行き毎に値段が変わるとゆ~。

前半までは正札、後半に行くに従い、+5,000円、+10,000円と上がって行く。
一種、ダイナミックプライシングに近いかもだけど、
人気が上がれば値も上がるとの商行為を、その場で済ます試みはなんとも面白い。

 

先生、私の隣に座っていただけませんか?@109シネマズ川崎 2021年9月11日(土)

封切り二日目。

席数118の【シアター3】は一席おきの案内なので
実質70席弱。

入りはその八割ほど。

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ここには三人の「先生」が登場する。

一組の漫画家の夫婦は、妻『佐和子(黒木華)』は今では売れっ子、
一方の夫『俊夫(柄本佑)』は
嘗ては妻に憧れを持たれるほどの人気だったものの
もう四年も新作を描いておらず、「感動が無くなった」ことが
その要因と吐露する。

漫画家は編集者や読者からは「先生」と呼ばれることはもう周知。


ところがこの夫、そんなことを嘯きつつ、
妻のアシスタントまがいのことをしながら、
その担当編集者の若い女性と不倫関係にある。

妻はそのことを知ってか、知らずか。


ある日妻の独り暮らしの母親が事故に遭ったとの連絡が入り、
二人は田舎の家に駆け付ける。

が、そこは車が無ければ、日々の生活にも事欠く不便な場所。

夫の勧めもあり『佐和子』は自動車教習所に通い始めるのだが
そこで三人目の「先生」、『新谷(金子大地)』と巡り会ってしまう。

当該所ならば「教官」が正しいはずだけど、あまり厳しくすると
ハナシが進まないので、ここでは「先生」を使うと了解する(笑)。


この若くてイケメン、オマケに優しい『新谷』の登場が、
連載を終わらせたばかりの『佐和子』の創作意欲に火を点ける。

先の夫の不倫にも薄々感づいていたことも取り入れ、
実録風のネームを書き出す。

それはまさに嘗ての文士が{私小説}で表現した体に酷似。
行きつく先は修羅場と相場は決まっているのだが。


そのネームを盗み読みした『俊夫』は慄然とする。
そこには自身の不倫の仔細も含めて、
妻と『新谷』との交流までがあけすけに描かれていた。

彼女はどこまでを知っており、どこからが空想なのか。
また教習所の「先生」との事実関係はどうなのか
激しく疑心暗鬼に囚われ、時にストカーまがいの行動まで起こす始末。

それもこれも、もとはと言えば自分に起因する事なのに、
しっかりと棚に上がっているのは、やはり
男性らしい身勝手さの描写。


さてここからが本作の真骨頂。

漫画のネーム、それを再現宜しく実録風に撮ったシーン、
過去の場面、そして同時並行して起きているイマイマの現実、
それらがないまぜになって画面上に繰り出され、
なにが本当なのか、この先どう流れて行くのかも見えぬまま、
物語りは二転三転。

夫婦は元の鞘に納まるのか、
それとも『佐和子』は『新谷』と逐電するのか、
はたまた第三のケースが展開されるのか、
わくわくの期待を持たせながら
終幕へと突き進む。


妻から夫への暗い復讐の念と、
一方で畏敬の想いがないまぜになった心情の表出は
さすがに『黒木華』、芸達者。

柄本佑』も同様に、情熱を取り戻した時の顔つきは
目の輝きからして変わってしまう演技の妙。

女性編集者を演じた『奈緒』ですら、
自分がネタになっていることよりも、
担当している漫画家が傑作を描くことに心血を注ぐ
ぶっとんだ表現が上々の出来。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


TSUTAYA CREATORS PROGRAM FILM」受賞作の映画化については
過去何度か言及しているけど、
その多くで共通して挙げられるのが、脚本の練り込み不足。

構成されるパーツが浅薄で、
人物造形に膨らみが無いので
全体的にぺらぺらな物語りに収斂する辛さ。

が、こと本作に於いては監督/脚本の『堀江貴大』の起用が吉と出た。

意図的に隣を映さないラストシーンの表現に、
とりわけ彼の技量の確かさを見る。

 

ムーンライト・シャドウ@TOHOシネマズ川崎 2021年9月11日(土)

封切り二日目。

席数158の【SCREEN3】は一席おきの案内なので
実質80席。

入りはその三割ほど。

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もう三十年も前に出版された
吉本ばなな』の〔キッチン〕。

話題作だったこともあり
(なんといっても『吉本隆明』の娘のデビュー作)、直ぐに読了、
今でもうっすらと流れは記憶に残るも、
同短編集に所収されているという本作の原作はとんと覚えておらず。

もっとも前者は1989年に『森田芳光』の監督/脚本で映画化されているので、
その思いも影響しているのかもしれない。


一組の兄弟とその恋人たち。
親しく交わる四人だが、兄と弟の恋人が突然に亡くなってしまう。

残された二人はその喪失感を埋め、再生できるのか、が
テーマとなっているも、それ自体は既に手垢の付いたモチーフ。


「月影」の都市伝説と合わせ、夢とも現とも付かぬ世界が展開、
更にはそれに優しい怪異がまぶされ、物語は緩やかに終焉する。

その都市伝説もどきも、どうにもありきたりで
新奇さは見られず。


元々は短編を九十分強の尺に引き延ばしているため、
ぱっと見不要と思われるシーンが頻出。

中にはきちっと回収されるエピソードはあるものの、
とりわけ「ピタゴラスイッチ」風の装置を総出で創る場面は、
各人の個性を紹介するでもなく、
漫然と時間の帳尻を合わせるための挿話にも見え、
何をか言わんや。


全体的に散文的な造り。

カメラは美しく、音の拾い方も巧いものの、
コンセプトが近似したPVを繋げて見せられているようで、
どうにも纏まりに欠ける。

もっとも『小松菜奈』がほぼほぼ
出ずっぱりなので、鑑賞を決めた幾つかの要素の一つは
十分に満たされはした。


評価は、☆五点満点で☆☆☆。


〔Moonlight Shadow〕で思い出すのは
1983年にリリースされた『マイク・オールドフィールド』の楽曲。

殺害された恋人に、自身の死後
天国で邂逅することを祈る歌詞の内容だけど、
こちらとのハイブリッドとの印象も受けるが。