RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

はるヲうるひと@109シネマズ川崎  2021年6月6日(日)

封切り三日目。

席数100の【シアター5】の入りは四割ほど。

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本土とを結ぶ小さな船が港に着くたびごとに
欲望に目をぎらつかせた男たちが降りたつ。

みたところ漁業以外に取り立てての産業もないその島には
多くの売春宿が軒を連ね、彼らの目当てはまさにそれに。

しかし、そこで働く女たちは、皆が皆訳アリの様にも見受けられ。


そのうちの一軒「かげろう」は四人の女たちを置き、
家の次男『得太(山田孝之)』は彼女らの世話をし、
主の長男の『哲雄(佐藤二朗)』は暴力で全員を支配する。

さらに長女の『いぶき(仲里依紗)』は昔からの持病ため、
寝たり起きたりを繰り返し、『得太』からは溺愛されるも、
女性たちからはやっかみの目で見られている。

『哲雄』が弟妹になにかにつけ辛く当たるのは、
彼が腹違いの兄なこと以外にも理由があるようだが、
それがおいおい明らかになるに連れ、
物語は全くの異なる側面を顕わにする。


売春が経済を回している島には
原発誘致に絡む騒動や利権も渦巻くも、
閉塞感が満ち満ちる。

なにかしらのしがらみに縛りつけられ、
おいそれと島外に出て行くこともあたわぬ住人たち。

多くは何をよすがに生きているのか、
明日への展望も持てないなか、金と力で支配する者と
搾取される側の構造が島全体を、いや、
最小のユニットである売春宿をさえ覆う。


『哲雄』の支配は、
自身の食い扶持であるはずの女性達への、
或いは血のつながった弟への差別の形で体現する。

その激烈さの源泉は、いったいどこから湧いて来るのか。

偏見に満ちた態度は、見ていて嫌悪感を催すほども
しかし多かれ少なかれ、全ての人中に潜む心根の極大化のようにも映る。


兄に隷属する『得太』の態度は見ていて歯がゆくなるほど。

彼らの力関係を知っている島の子供にすら侮られる始末。

が、その背景が明らかになった時に、
兄-弟妹-売春婦たちの関係性がぱちんとはじけ、
恐ろしいほどの実相が姿を現す。

自身のアイデンティを崩し、
生きて行くためのよすがさえ切り取ってしまう、
まさに驚天動地の事実に
鑑賞者の側も思わず仰け反るのだが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


コミカルな役柄しか見たことのない『佐藤二朗』の演技の薄気味悪さに驚きながら、
何を置いても『山田孝之』の熱演に瞠目する。

ボキャブラリーも貧困で、ちょっと頭が足りないのか?と思わせながら、
幼い時のトラウマを心の奥底に秘めたまま、
辛い仕打ちに耐えて来た男の悲哀を存分に表現し、
余人を以って替え難いほどの仕上がり。