RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

カセットテープ・ダイアリーズ@TOHOシネマズシャンテ 2020年7月5日(日)

封切り三日目。

席数224の【シャンテ-1】は半分の案内なので112席。
そのうちの七割以上は埋まっている感じ。

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原題の〔Blinded by the Light〕は『スプリングスティーン』の楽曲から採られているらしく、
日本では〔光で目もくらみ〕と訳されているよう。

でも今回の邦題、なかなか悪くないと思っており、
何となればタイトルバックに「BASF」のカセットテープのデザインが挿入され、
制作サイドも「WALKMAN」やカセットテープに並々ならぬ思い入れがあることを指し示しているから。


その昔、カセットテープと言えば「TDK」「maxell」「Scotch」あたりが日本では主流だったけど、
独逸メーカーの「BASF」もオープンリールの嚆矢らしく、カセットもちゃんと販売しており
自分も持っていた。

柔らかめの音質が比類なく、黄色を基調としたパッケージも相俟って
なかなかのお気に入り。

今回のタイトルデザインに使用されているのは、当然のことながら欧州向けのもので、
やはり英国ならではのこと。

おっと、つい懐旧にひたってしまった。


本作の舞台はサッチャリズムが推し進められている
1980年代のイギリス。

経済政策の結果、外国資本が国内企業を駆逐し
失業者が溢れ、その憤懣は平穏に暮らしている移民に向かう時代背景。


『ジャベド』はパキスタンからの移民の二世。

主人公が住む街ルートンは、ロンドンの近郊も
心理的には遠い場所。

差別を感じながらも、自身はイギリス人との強い思いを持ち、
一方家の中では、旧国伝統の家父長制の窮屈さに辟易している。

そんな彼が、文書を紡ぐことに才能を発揮し出す契機となったのは
同級生が貸してくれた『スプリングスティーン』のカセットテープ。

楽曲に綴られていた詩は、あまりにも自分の想いに一致する内容。

更に文学教師の『グレイ』の存在も大きい。
彼女が見出さなかったら、彼はその才能を開花できたかどうか。

移民排斥の外的環境、父親の失業を契機とする家庭内での葛藤、
幼い頃からの親友『マット』やようやくできた恋人の『イライザ』との関係を盛り込みながら、
一筋縄ではない『ジャベド』の成長譚が描かれる。

普通の親であれば、子供の成功は単純に嬉しいものだが、
そうは向かわせない文化的な背景は複雑。

現在の関係を全て切り捨て自身の夢に邁進する、
夢を諦め閉塞的な街で鬱々と暮らし続ける、
幾つかの選択肢がある中、彼はどの道を進のか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


歌そのものが時々の主人公の内面を代弁するのは
モテキ〕でも採られた手法。
ただ歌詞の表示の仕方は斬新で、
ガイ・リッチー』の映画を初めて観た時ほどのインパクト。

胸のつかえがすっとおりるような鑑賞後の爽快さはありながらも、
劇中、隣家の老人が吐露する
「自分達は鍵十字に対抗するために戦争に行った。
なのに今、それに類する人間が(よりによって)この国に多く居る」との言も重く受け止める。

のぼる小寺さん@109シネマズ川崎 2020年7月4日(土)

封切り二日目。

席数118の【シアター3】は現状では半分の案内なので
実質59席。客の入りはその四割ほど。

客層はW主演の二人を目当ての、若い女性、ちょっとおぢさんが
ほぼほぼ半々といったところ。

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『小寺(工藤遥)』さんは、壁をただひたすら登る。

中学から始めたと言うボルダリングの腕前がどの程度なのかは
良くわからない。

体育のバレーボールでは球を顔で受けるほどの運動音痴。

進路希望調査には「クライマー」と書いてしまう天然っぷり。

立膝をしてラーメンを食べる行儀の悪さ。

時として哲学的な科白を吐き同級生の目を白黒させる。

しかし、目の前の凹凸には真摯に向き合う。


そんな彼女に熱い視線を向ける四人の男女。

中でも『近藤(伊藤健太郎)』のそれは、ちょっとストーカー染みた、
恋愛感情も帯びた憧れに近いもの。

最初は声も掛けられずただ見ているだけだったものが、
次第に言葉を交わし触れ合うことで
今の自身を省みるようになる。

『小寺』さんの生真面目な態度が触媒となり、
四人の気持ちが少しづつ変化して行く好循環。


振り返ってみれば、自分も中・高と
特に何をするでもなく多くの時間を無為に過ごしていたとの記憶。

突然、外から何かがやって来て、
自分や毎日の生活が一変するかもとの淡い期待を持ちながら。

しかし何事もなく、六年間は走馬灯のように過ぎて行った。

が、本作で描かれる様に、
実は変わるきっかけは至る処に在り、
ただ自分が気づかなかっただけなのかもしれない。


その結果としてのラストシーンも、余韻の残る
ココロがふわっと温かくなる嬉しい描写。

欲を言えば、出演者が売れっ子過ぎて訓練に時間を割けなかったろう、
肝心のスポーツシーンでイマイチ迫力を感じられない点か。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


桐島、部活やめるってよ〕では、
最後まで姿を見せない『桐島』が台風の目の様に校内をかき回す。

一方、本作での『小寺』はしっかりと実体化し、
意図せずに見せる自分の姿勢で周囲を変えて行く。

特に制作サイドには前作への意識は有ったろう、
計五人の男女の心理や日常の変化をオムニバス的に描く点でも共通している。

MOTHER マザー@TOHOシネマズ川崎 2020年7月4日(土)

封切り二日目。

席数240の【SCREEN7】は現状では半分の案内なので
実質120席。客の入りはその六割ほど。

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長澤まさみ』好きにはなんとも複雑な気持ちになる一本。

年齢的にはぼちぼち不思議でないにしろ、
たぶん映画で初めて演じる母役はとんでもない毒親

予告編を見て新境地だね、などと思っていたら、そこは「PG12」、
なんと濡れ場が複数回ある。

いや勿論、おっぱいはおろかパンツも見えんのだが、
随分と振り切ったものだと、違う意味で感心。


『キングダム』の時のシャープな顎の線、
『コンフィデンスマンJP』でのふっくらしながらも張のある線、
それが本作では弛みすら見られ、自堕落な暮らしと
老いを感じさせる造作。

一方で、なまじ顔立ちが整っているので、罵詈雑言を吐くシーンでも
美しく見えてしまうのは若干困りものだけれど。

役柄に併せて体形すら変えるのは
ジェイク・ラモッタ』を演じた『デ・ニーロ』以降のハリウッドの潮流ながら、
彼女も随分と頑張ったものだと思う。

あ、もっとも、日本にも『鈴木亮平』が居たか(笑)


肉親を利用し、自分達に情を掛けてくれた人を利用し、
生きずりの他人も利用する。

時に甘え、時に拗ね、時に泣き、時に掻き口説き、時に怒鳴る。

ある種の男には蠱惑的な磁力を発揮し取り入る。

こんな人間が近くに居たら、どんなに大変なことになってしまうだろう
けして関わり合いにはなりたくない共感できぬ右代表の人物造形。

でも実在したのだから・・・・。


とことん倫理を外した行為を続け奔放に生きる『秋子』は
両親や妹からも絶縁を言い渡され、
不義理をした知人には寄る辺もなくなり次第に追い詰められていく。

しかしそんな彼女でも一人息子の『周平』だけは手放さない。

もっとも、便利に使いたいとの思いや、
子供の方が金の無心が効くとの打算は透けて見え、曰く
「自分が生んだ子供をどうしようが私の勝手」。

一方の『周平』も「自分がいないとお母さんは生きていけないから」と
傍にとどまり続ける。

共依存との表現もあったけれど、
幼い妹の『冬華』がいなければ、はたしてその関係は続いていたろうか。


蛸壺の様な狭い世界で暮らす二人が
追い詰められて選ぶ手段は
どう考えても道理からは外れている。

いや、この二十年間の『秋子』の選択は全てそう。

外のからの援けを全て失い、自家撞着に陥った行動が導く悲劇。


しかし最後まで、息子は自分を裏切らぬとの確信はなんともあっぱれ。

ただ、その代償として青春の十数年を奪ってしまうことへの後悔の念が
欠片も見えぬのには怖気をふるう。

ラストシーンに至っても微塵の光明も見えず、
二人はこの先、どこまで堕ちて行ってしまうのだろう。

あまりの救いの無さに暗澹とする。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。

フィールド⇔ワーク展@渋谷公園通りギャラリー 2020年6月28日(日)

inclusion-art.jp

トーキョーワンダーサイト渋谷」の跡地に
アール・ブリュット}の拠点として改装オープンしたものの
程無くコロナ禍の影響で休業。

オープン記念の”あしたのおどろき”展、
行きたかったなぁ。


今月2日~漸くの再オープン。

受付前ではお決まりの検温と手指の消毒。
係員さんも随分と丁寧に案内してくれる。

 

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標題展には「日々のアトリエに生きている」との副題付き。

計五名の作家の作品、および
その制作過程を『齋藤陽道』が撮った写真を展示


中でも一番インパクトを感じたのが『蛇目』の作品。

アクリル絵の具を何層にも塗り重ね、
彫刻刀で削り、年輪の様に浮き出させる手法はありがちも、
その細かい手技がひときわ冴える。


会期は~8月23日 (日)まで。

inclusion-art.jp

第48回入札制オークション@Bunkamura Gallery 2020年6月28日(日)

標題ギャラリーも久しぶりなら、【渋谷】に来るのも久しぶり。

この三ヶ月で、JRの改札の場所が変わっていて
やや戸惑ったりもする。

雨上がりと言うこともあろうか、
外国人観光客が少ないせいだろうか、
前年比較では人出はやはり少ない気がする。

それでも十代・二十代のおねえちゃん・おにいちゃんは
元気に街を闊歩している。

 

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バンクシー』や『金子國義』を多く並べる
直近の方向性は踏襲しながらも、
今回は一点ものも随分と多目な印象。

幾つかはぐっと来ながらも、
入札には至らず。

特に『上田風子』や『オザブ』の何点か。

本オークションの入札期限は28日の~15時。

翌日からはアフターセールが~7月12日(日)まで。

www.bunkamura.co.jp

 

ワイルド・ローズ@チネチッタ川崎 2020年6月27日(土)

封切り二日目。

席数154の【CINE9】の現在のキャパは77で、
その六割ほどは埋まっているか。

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所謂{A Star Is Born}もの。
天賦の才を持つヒロインが艱難辛苦を乗り越え栄光を手にする。

しかも本作の場合、誰も死なず、且つ
出て来るのは皆、良い人ばかり。
唯一、感情移入できない主人公を除いて。


ありきたりな成功譚に堕しないために、制作サイドは
大きく二つの仕掛けを用意する。

一つは脚本の冴え。

テンポの良いオープニングから、もう驚かされっぱなし。
彼女の今の環境で、先ず?!
そこを出た時に更に驚きが待ち、更には
最初に行った場所で!!
次に向かった所では輪を掛けて!!!
なんちゅ~展開じゃ。
それでいて、主人公の境遇を過不足なく伝えきる。

その後、紡がれるエピソードの流れは、
観る側の予想や期待をことごとく裏切り続ける。

ありがちなお約束を全て外しまくり、
おいおい次は一体どうなるんだい、と
興味の深化が止まらない。


二つ目は先に挙げた『ローズ(ジェシー・バックリー)』の造形。

明確に自身の年齢を示唆することはないけれど、
会話の手掛かりからは二十代半ばか。
それでいて二児の母。

なまじ自他共に認める才能があるため、それを開花させたい。
一方で、シングルマザーの子育てと生活の糧は必要。
それをどう両立させるか?

いや、要はできてないのである。
夢追い人のまま、年齢だけを重ねてしまい、
まだまだ子供のままで自身の母親に甘えまくる。
自分が取った行動の責任をまるっきり取れていない。

それが観客からは、あまりに自己中に見えてしまう。


成功と共に、本人の人間的な成長描写も
本編の要素。

観終わった後味も極上で、百分ほどの尺ながら
高濃度な一本


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


カントリー歌手の『ローズ』を吹き替え無しで演じたという
ジェシー・バックリー』がまた絶品。

実年齢も近いだろう設定の主人公の
並外れたワイルドさをあますところなく表現。

そう言えばこの人、同じくショウビズの世界を描いた
〔Judy〕にも出てるんだねぇ。

浮世絵に見る名所と美人@たばこと塩の博物館 2020年6月20日(土)

6月2日から営業を再開している標題館。

入り口には消毒用のアルコール液、
券売窓口の前には体温確認用のサーモグラフィー。

普段なら新聞掲載の割引券を持参するのだが、
残念ながらここ暫くでその告知は行われておらず、
正規料金の100円を支払い入場。

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館内は密にならない程度の入り。

みんな、こういった施設への来場を
心待ちにしてたんだねぇ。


さて、標題展、

www.tabashio.jp

隅田川に育まれた文化」との副題も冠され
博物館界隈は元々江戸時代には名所の集中地。

景色だけ、或いは美人だけ、はたまた
美人・役者+景色の浮世絵を中心にだいぶんな展示。

特徴的なのは個人蔵と表示されている作品の多さ。
それだけ標題館では過去目にしてなかった作品が並んでいる証左。

解説が詳細なのも同様。
読みふけりつつ絵も観るので、随分と時間が掛かってしまった。


それにしても思うのは、江戸期の市井の人々の素養の高さ。

識字率は当然としても、
見立てや引用は原本を知っている前提で描き込まれているハズ。
多くの人が古典や世情を理解していなければ不可能で。

創作する側は鑑賞者の力量を推し量りアテにし、
画面上でのコミュニケーションを取っていたのだろう。

直情的な日本礼賛ではなく、ホント凄いコトだと改めて思う。


会期は~6月28日(日)まで。