封切り三日目。
席数224の【シャンテ-1】は半分の案内なので112席。
そのうちの七割以上は埋まっている感じ。
原題の〔Blinded by the Light〕は『スプリングスティーン』の楽曲から採られているらしく、
日本では〔光で目もくらみ〕と訳されているよう。
でも今回の邦題、なかなか悪くないと思っており、
何となればタイトルバックに「BASF」のカセットテープのデザインが挿入され、
制作サイドも「WALKMAN」やカセットテープに並々ならぬ思い入れがあることを指し示しているから。
その昔、カセットテープと言えば「TDK」「maxell」「Scotch」あたりが日本では主流だったけど、
独逸メーカーの「BASF」もオープンリールの嚆矢らしく、カセットもちゃんと販売しており
自分も持っていた。
柔らかめの音質が比類なく、黄色を基調としたパッケージも相俟って
なかなかのお気に入り。
今回のタイトルデザインに使用されているのは、当然のことながら欧州向けのもので、
やはり英国ならではのこと。
おっと、つい懐旧にひたってしまった。
本作の舞台はサッチャリズムが推し進められている
1980年代のイギリス。
経済政策の結果、外国資本が国内企業を駆逐し
失業者が溢れ、その憤懣は平穏に暮らしている移民に向かう時代背景。
『ジャベド』はパキスタンからの移民の二世。
主人公が住む街ルートンは、ロンドンの近郊も
心理的には遠い場所。
差別を感じながらも、自身はイギリス人との強い思いを持ち、
一方家の中では、旧国伝統の家父長制の窮屈さに辟易している。
そんな彼が、文書を紡ぐことに才能を発揮し出す契機となったのは
同級生が貸してくれた『スプリングスティーン』のカセットテープ。
楽曲に綴られていた詩は、あまりにも自分の想いに一致する内容。
更に文学教師の『グレイ』の存在も大きい。
彼女が見出さなかったら、彼はその才能を開花できたかどうか。
移民排斥の外的環境、父親の失業を契機とする家庭内での葛藤、
幼い頃からの親友『マット』やようやくできた恋人の『イライザ』との関係を盛り込みながら、
一筋縄ではない『ジャベド』の成長譚が描かれる。
普通の親であれば、子供の成功は単純に嬉しいものだが、
そうは向かわせない文化的な背景は複雑。
現在の関係を全て切り捨て自身の夢に邁進する、
夢を諦め閉塞的な街で鬱々と暮らし続ける、
幾つかの選択肢がある中、彼はどの道を進のか。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
歌そのものが時々の主人公の内面を代弁するのは
〔モテキ〕でも採られた手法。
ただ歌詞の表示の仕方は斬新で、
『ガイ・リッチー』の映画を初めて観た時ほどのインパクト。
胸のつかえがすっとおりるような鑑賞後の爽快さはありながらも、
劇中、隣家の老人が吐露する
「自分達は鍵十字に対抗するために戦争に行った。
なのに今、それに類する人間が(よりによって)この国に多く居る」との言も重く受け止める。