RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

凪待ち@TOHOシネマズ新宿 2019年7月1日(月)

封切り四日目。

席数128の【SCREEN3】の入りは八割ほど。


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原作もないのに、
よくまあここまで救いの無い物語を紡ぎだしたものだと、
監督の『白石和彌』と脚本の『加藤正人』に対して
色んな意味で脱帽。

その暗さは、何れも映画化された
佐藤泰志』の〔海炭市叙景〕や〔そこのみにて光輝く〕に通底するものがある。


ギャンブルの高揚感に囚われ、ずるずると落ち行く男。

震災後の原発事故により一旦は故郷を離れたものの、
複数の事情により再び戻って来た母娘。

七年前とは変わって行く地域への、住民達の閉塞感にも似た思い。

本来であればこんな鬱々とした作品は
批評家や好事家の評価は稼げても一般受けはまずしないはずなのに、
予想を裏切る好調な興行は偏に主役を演じた『香取慎吾』の功だろう、或いは
キャスティングと企画の勝利と断じて良いかも。

観客も、そのファンと思われる層の人達が多かったし。


もっとも『香取』本人の演技は巷間評されているほど
出来が良いとは思えない。

ただ、その大きな身体も生かしつつ、うらぶれた
でも心根の優しい中年男の造形にはピタリと嵌っている。

とことん精神がだめだめな弱い人間性
疫病神のように世話になった人々に災厄をもたらしてしまう自己に怯えを覚え、
体すら縮んで見えるほど。


本作のテーマは「喪失と再生」だと
監督は述べているし、多くの人もそう書いている。

しかし、自分には全てがそうだとは思えない。

ラストシーンで流れる石巻市の海中の映像は
今はいたたまれなくとも、逆にこれからの再生を確かに感じさせるもの。

一方、男は、今は更生したかに見えても、
再び快楽に溺れる予兆を感じさせる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


誰が彼女を殺めたのか?の謎解きについては、ある程度
結果を予想できるもの。

またシーンの抑揚も、時に急いて、時に冗漫になる
語り口が良くないのも気にかかるところ。