RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

おみおくりの作法@チネチッタ川崎 2015年2月23日(月)

標題館では封切り二週目だが、
実際には1月24日~の他館公開で、
次第に火が付き拡大のカタチ。

席数284の【CINE 5】の入りは三割程度。


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『ジョン・メイ(エディ・マーサン)』はロンドンのケニントン地区の民生委員として働く。
彼の仕事は孤独死をした対象者の死後の身辺整理と葬儀の執り行い。

多くの担当者は事務的にコトを運ぶが
『メイ』は故人の過去にきっちりと向き合い
信教も含めてカスタマイズされた葬儀を執り行う。

身内は勿論のこと、列席者を集めるためにも奔走し、
弔辞を起草するだけでなく、会葬者が見つからなければ
自分が埋葬まで立ち会う丁寧ぶり。


一方でモルグは担当する遺体で溢れ返り、
業務的には非効率。
経費削減のお題目の下、彼は解雇を言い渡させる。


そんな折、向かいのアパートの住人が孤独死をする。
『ジョン・メイ』はこれを仕事の最期の総仕上げとするため、
近隣の住人ではあるものの見ず知らずの故人の知己を尋ね
国中を旅して回る。

その過程で、几帳面で面白みの欠片も無かった彼の生活に
少しずつの変化がきざす。


主人公の日々の生活の描写がユニークだ。
決まった時間に出社し、文房具も寸分違わぬ位置に置かれている。
食べるものも判で押したように同じ物、
通勤経路も変わらない。

唯一違うのは、死者の過去を知るために
プロフィールを追う時間だけで、
幾つものユーモラスな視点で描かれるそれらに
観客は、しかし、暖かい笑いを洩らす。

前半で纏めて紹介される複数の生活習慣が、
後半のエピソードで頗る効果的に活用される。


孤独死自体は昔からある事象だけれど、
話題としてはカレントだ。

また、お役所業務の効率化にしたところで
昨今では税の使途として、住民の厳しい監視の目にさらされている。

『メイ』のような男の存在も珍しくはない。
日本でも男性の生涯未婚率が二割を超えようとしている。

本作はそういった古くて新しい素材を組み合わせることで、
何とも心に染み入る物語を紡ぎだしている。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆★。


それにしても日本語のタイトルはいただけない。
おくりびと〕を意識したものだろうけど、
原題の〔Still life〕の方が、
最早止まってしまった死者の時間と、
生きているにもかかわらず、停まった時間の中で暮らしている主人公の生活が対になり、
しかし後者が次第に動き出す可能性が仄見えることで
素晴らしい対比になっていたのに・・・・。