RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

アメリカン・スナイパー@チネチッタ川崎 2015年2月23日(月)

封切り三日目。

席数532の【CINE 8】の入りは八割程度と盛況。
いくら23日と言っても平日の昼下がりにこの入り、
すげ~な。

客層は若年~老年まで満遍ない。
ただ男性比が高めなのは
戦争モノにアリがちな傾向。

まぁ「R15+」で人が撃たれるシーンが沢山
出て来るからね。


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四度に渡ってイラクに派兵され、度毎に生還を果たし、
その間に百六十余人の「敵」を射殺した伝説のスナイパー
『クリス・カイル』が本作の主人公。

しかし、その「敵」は、必ずしも「兵士」とは限らない。
直近の「IS」の例からも判るように、一般市民でさえ人間凶器となる可能性がある。

父親から「お前は狼から羊を護る牧羊犬になれ」と育てられた『カイル』にとっては、
仲間であるアメリカ兵を護ることは、当然そのミッションに合致するのだが、
女子供を標的にすることは信条も含め相反する行為。
その矛盾が次第に彼の精神を蝕んで行く。

路を行き交うものが全て的に見え、見るからに「兵士」以外をターゲットとする時は、
破壊行動に走らないように祈りながら引き鉄に指を掛ける。
そんな、持って生まれた優しさも、彼の心が壊れるコトを助長する。


物語は 派兵-帰還 を一つのタームとし
繰り返し描かれる。
派兵=オン
帰還=オフ
のはずが、次第にオンがオフを侵食し始める。

安らぐはずの家族との時間さえ、戦場にいる既視感に襲われ
所謂PTSDが彼を苦しめる。


こうしてみると『イーストウッド』が描きたかったのは、
戦場の過酷な現実だけではなく、
本国に戻っても戦士達には安息は得られない
戦争という不条理であることは
論を待たない。

しかし劇場内では、アメリカ本国の場面になると
途端にトイレに立つ観客も多く、
勿体ないことだと思ってしまう。


また「敵」とされている、イスラム兵とて、
昔の騎兵隊とインディアンの関係の様に画一的な描き方ではない。

平時であればオリンピックのメダリストが
狙撃兵として主人公と敵対する。
しかしその狙撃兵にも家族があり、
戦争さえなければ人間的な生活が送れていたことが
キチンと語られる。

ここには絶対の正義などはなく
立場が変われば見方も変わることが提示される。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆☆。


重厚に描かれた本編の後に、
ある一文がそっけなく画面に現れる。

しかし、これこそが、最も重要な一行。
争うことの不毛さを
我々が忘れないでいるための
監督からの強烈なメッセージ。


ここ数作、やや緩めだった監督の
引き締まった造りの一作は
まさに傑作。