封切り三日目。
席数120の【SCREEN8】の入りは八割ほど。
「9.11同時多発テロ」発生後、
アフガニスタンに軍事介入したアメリカだが戦況は泥沼化、
二十年近く経っても終結の糸口は見いだせずにいた。
そして2018年。
ターリバーンの武器・弾薬を探索する部隊の軍曹『ジョン・キンリー(ジェイク・ジレンホール)』は
新たな通訳として『アーメッド(ダール・サリム)』を雇い入れる。
彼には成功報酬として、家族ともども米国ビザの発給が約束されていた。
しかし作戦の途中で二人を残して部隊は全滅。
深手を負った『キンリー』を連れ、『アーメッド』は米軍基地を目指す。
この逃避行の過程が相応の時間を割いて描かれる。
『アーメッド』は通訳だけではなく、戦闘員としても有能。
一方で上官の指図にも、自身が納得せねば従わぬ頑固さもあり。
が、結局は、彼の多くの機転と献身により『キンリー』は救われるのだが、
自分の身を危険に曝してまで米兵を救った理由は何か。
単に報酬が目当てなのか。
『アーメッド』は多くを語ることはなく
その心の内は判らない。
ここで思い出すのは
実話を基にした〔タクシー運転手 約束は海を越えて(2017年)〕。
高価な報酬目当てだったタクシー運転手が
雇い主のジャーナリストと行動を共にすることで
次第にその使命を理解し、最後は我が身の危険を顧みず
追っ手からの逃避を繰り広げる。
では彼のモチベーションも、単に高額の運賃だけだったろうか。
物語りの後半では、助け助けられの立場が逆転。
本国に戻り体も回復した『キンリー』だが、
米国が約束を履行しなかったため
『アーメッド』がターリバーンから懸賞金を掛けられ
今だアフガニスタン国内に潜伏していることを知る。
PTSDによるフラッシュバックに悩まされ、
『アーメッド』のビザを取るための交渉も思いに任せぬことから酒浸りになりながらも
私財を投げ打ち、再びアフガニスタンに赴く決意を固める。
このパートでは『キンリー』の心象は
かなり克明に描写される。
〔ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(1998年)〕や
〔シャーロック・ホームズ(2009年)〕の
撮影・編集で独特の文体を編み出した『ガイ・リッチー』だが
あまりに繰り返され過ぎて最近では辟易気味だったのも事実。
それを本作ではぴたりと封印、
かなりオーソドックスな撮り方に終始しており、
それが却ってリアルな戦場の空気を醸すのに奏功
(もっとも、BGMについては
変わらず『ガイ・リッチー』節)。
戦場を後にするラストシーンは、
〔プラトーン(1986年)〕と近似のシチュエーションも
カタルシスの点では段違い。
背景には、人を裏切らない「絆」の存在があるからだろう。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
エンドタイトル前のテロップでは
真逆の現状が語られる。
2021年のアメリカ軍撤退時には、
通訳として協力したアフガニスタン人が(ビザを発給されることなく)
そのまま取り残されたため、多くは殺害または今でも潜伏しているとの実態。
実際の写真も映されるが、
彼等の顔にマスキングがされているのは
身元を明かすのを恐れた処理と思われ。
協力者を顧みない国家は、信ずるに足る存在なのか、と
強く投げ掛ける。