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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

落下の解剖学@チネチッタ川崎 2024年2月23日(金)

本日初日。

席数191の【CINE10】はほぼ満員の盛況。

 

 

フランスの山荘に住む三人の家族。
ベストセラー作家の『サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)』、
夫の『サミュエル(サミュエル・タイス)』、
事故の後遺症で視覚障害がある息子の『ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)』。

ある雪の日、『サミュエル』が家の前で頭から血を流して死んでいるのが見つかり
自殺・他殺の両面から捜査を開始した警察は
殺人容疑で『サンドラ』を起訴、
そこから物語は法廷劇へとなだれ込む。

裁判官、陪審員、傍聴人の前で明らかにされる夫婦間の確執。
作家を目指していた夫の挫折とそれによる精神の変調、
息子が遭った事故の遠因、
妻の性的嗜好
家事分担の偏りや家計の内実まで微に入り細に入り暴露されていく。

また、こうしたスキャンダルが大好物なマスコミも好餌とばかりに飛び付き
報道を垂れ流す。


そんな中、法廷では検察側と弁護側で丁々発止のやり取りが繰り広げられる。

検察側の一番の弱みは直接的な証拠が何も無く、目撃者もいないこと。
「疑わしきは被告人の利益に」が本分であれば、起訴の妥当性すら疑わしい。
それでも裁判に持ち込んだ意図はどこに有るのか。

しかし状況証拠が積み上げられるうちに、
『サンドラ』のついていた嘘が暴かれ
グレーな印象を持たれ出す。

双方は互いに有利な証人を喚問し、
一つの事実は正反対の見方に綺麗に分かれる。

果たして真相は如何に、との
息が詰まるほどのサスペンス。

キモとなる法廷シーンはドキュメンタリーを観ているような
カメラワークとカット繋ぎで高まる臨場感。


とは言え、シンプルな法廷モノとは異なる側面を持ち合わせるのも本編の特徴。

男性が稼ぎ、女性が家庭を守るとの固定概念。
性差による役割分担の偏見が、捜査や起訴する側の念頭に有ったのではないか、
男女が逆であったら果たしてどう動いたか。

また、日本にありがちと(勝手に思っていた)検察の都合による起訴が
行われている事実。

検察側の証明も根拠の薄い推測に頼っているにも関わらず、
被告側の証言には声高に「憶測に過ぎない」と切って捨てる頑な態度、等。

無理筋は露呈し、しかしそれを引っ込めることはさらさらない。


抱える視覚障害の故、もっとも証人としての信憑性が低いと見られていた
『ダニエル』の証言が決め手となり、裁判は結審。

しかしその判決が真実であったのかは誰にも判らない。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


『ザンドラ・ヒュラー』の静かな態度の演技が
ひと際目を引く。

聞くところによると、
監督・脚本の『ジュスティーヌ・トリエ』は
彼女を念頭に当て書きをしたそう。