RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

アイアンクロー@TOHOシネマズ川崎 2024年4月7日(日)

封切り三日目。

席数147の【SCREEN2】の入りは六割ほど。

 

 

昔のプロレスラーは
今にも増してキャラが立っていたなと思う。

例えば「吸血鬼」と呼ばれた『フレッド・ブラッシー』は
歯をやすりで研ぎながらの入場。

勿論、実際に歯に当てていないだろうし、
「噛みつき」そのものも反則技、とは言え
カウント4までなら許されるとのルール(?)を逆手に取った
一種のギミック。

それを斟酌せず、幼い頃は随分と興奮したもの。


また、技の名前とレスラーの名前が紐づいているのもお約束。

『ブル・ロビンソン』なら「人間風車(ダブルアーム・スープレックス)」、
ブルーノ・サンマルチノ』なら「人間発電所」で「カナディアン・バックブリーカー」と、言うように。

で、今回のタイトルにもなっている「アイアン・クロー」。
本来なら「ブレーン・クロー」が正式名称も、
「アイアン・クロー」と呼称されれば、
第一の使い手『フリッツ・フォン・エリック』と一体化。

1960~70年代は『馬場』や『猪木』と抗争を繰り広げ、
利き手の右手首に左手を添え、大仰にこめかみを掴むシーンを今でも覚えている。

もっともその対抗措置として、
手を鉄柱に打ち付ける等を、やはり芝居っ気たっぷりに行うのだが(笑)。


本作は彼が引退しプロモーターになり、
四人の子供(実際子供は六人。長男は夭逝、六男はいないことになっている)を
プロレスラーとして育て上げることから始まる。

父親として『フリッツ』は「プロレス界で最強の一家」になることを目指すも、
不思議なことにプロレスラーになることを表立って強制はしない。

寧ろ息子たちが自発的にそうなるようにソフトに誘導。

とは言えそのスタンスが、後々息子たちを苦しめ、過剰なプレッシャーを与え、
悲劇の連鎖を生む要因に。

アドバイスやいたわりの言葉を求めても
「そんなことは兄弟間で解決しろ!」と言い放つ、
ある種の責任逃れ。

レスラーやプロモーターとしては優秀も
家族の長としてみた時には首を傾げざるを得ない。

そこが〔ドリームプラン(2021年)〕で描かれた父親像とは
かなり違っているのだが、どちらも
近付きにはなりたくないタイプ。


が、主人公はあくまでも「フォン・エリック・ファミリー」の長男としての(実際は次男)
『ケビン(ザック・エフロン)』。

一番最初にデビューしたものの、弟の『デビッド』ほど口も達者ではないし、
『ケリー』のように華もない。

ピンでは輝けずに「エリック兄弟」の構成員としての価値しかなく、
チャンピオンベルトへの挑戦権もままならず。

弟の二人ほど、自分の記憶にも残っていない。

もっとも自分がプロレスをよく見ていたのは
『デビッド』が日本で客死し、
『ケリー』が「狂乱の貴公子」こと『リック・フレアー』を破り
「NWA世界ヘビー級王者」戴冠の頃までで、
その後の「呪われた一家」となった背景も
この映画で初めて知ったくらい。


太く短く生きるのと
細く長く生きることはどちらが幸せとの命題は、
ここでは後者を是としているよう。

弟たちを思いやりつつ、
父親の頸木を断ち切った者は今でも存命、
大家族の長となっている。

ただ、自身の子供の何人かは
やはりレスラーになっており、血は争えない、か。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


劇中「ショー」との表現が頻出し、
ブルーザー・ブロディ』が試合前に「アングル」を段取りするシーンも挿入される。

じゃあ、まるっきり筋書きのあるドラマかと言えば、
リング上での怪我は日常茶飯時で、時として死者さえ出る現実。

当の『ブロディ』もロッカールームで同僚に刺殺される等の
事件も頻発。

有名な一家に仮託し、プロレス界の典型的な裏面史を語るのが目的なのか、
それとも心優しい男の半生を描くことが目的なのか、
焦点がぼやけてしまっているのはどうにも不満。