封切り三日目。
席数349の【シアター6】の入りは八割ほど。
一家三人を惨殺したとして死刑判決を受け収監中の『鏑木慶一(横浜流星)』が
自身の体を傷つける詐病で搬送中の救急車から脱走。
名前を偽り外見を変え、
ある目的のために職と住処を転々とする。
事件の時『慶一』は十八歳。
が、たまさか少年法が改正されるタイミング。
官はこれを少年による凶悪犯罪抑止アピールの絶好の機会ととらえ、
彼はスケープゴートとされる。
真犯人は他にいると一貫して無実を訴えても、
耳を貸す者は誰もいない。
直接的な証拠が無いなか、
見込み捜査とおざなりな取り調べののち
死刑判決は確定する。
唯一の目撃者である事件の遺族『由子(原日出子)』は
PTSDで碌な証言も叶わず、
加えて今の居所は親族により警察にも伏せられている。
主人公の脱走の目的は何なのかは語られぬまま、
逃避行が描かれる。
その過程で関りを持つた何人かは、
皆々こぞって彼に対し親近感を覚える。
誠実な態度が、殺人鬼の残虐性とはあまりに乖離しているからで、
中には率先して免罪を訴えようとする者も。
彼を執拗に追うのは
事件当時の捜査主任だった警視庁の刑事『又貫(山田孝之)』。
しかし『又貫』ですら事件に対しての疑問と
『慶一』に対し特殊な感情を抱き始める。
逃亡理由の謎と
追いつ追われつのサスペンス。
その間に挟み込まれる、ほっとさせるような
人と人とのふれ合い。
物語りはどのように収束するのか。
起伏に富みスピード感のある描写は、
最後の団円まで途切れることはない。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
『又貫』はある機会に『慶一』と対峙し、
逃走の理由を尋ねる。
その答えは「信じたかったんです、この世界を」。
自分は無実なのだから、
世間は必ず間違った判決に気づき正してくれるとの真摯な思いが滲み出る
青臭く世間知らずの一言。
社会はそうした思いなど、
簡単にひねりつぶしてしまうだろう。
売名と金儲け、歪な正義のためなら、
暗黙の社会規範を平然と覆そうと企む人間や、
それに快哉を叫ぶ者すらいるならなおさらのこと。
が、なまじ無垢な言葉だけに、
聞く側の心をも動かす。
四年前に書かれた物語りの映画化には、
今でこその意義がある。