封切り三日目。
席数118の【シアター3】の入りは七割ほど。
その一家は、一見平和そうに見えた。
妻『初瀬桃子(江口のりこ)』は結婚を機に退職し専業主婦に。
綺麗好きで、家の中はいつも整っている。
以前勤めていた企業の協力で、
手作り石鹸の教室の講師をし、これが好評。規模の拡大をも目論む。
夫の『真守(小泉孝太郎)』は毎朝のジョギングが日課。
母の住む母屋の隣に離れを建て、夫婦で住む。
しかし、子供はまだいない。
母の『照子(風吹ジュン)』は夫を亡くしてから日も浅いが、
気丈に振舞っている。
むやみに息子夫婦を頼ることはせず、
身の回りのことは(朝のゴミ出しを除き)なんでも自分で行う。
が、描写されるそうした生活の節々に、
なんとはなしの違和感を覚えるのは穿ち過ぎか。
もっとも、一家の周囲では不穏な動きも。
決まって餌を食べに来る野良猫が、近頃は一向に姿を見せない。
給餌皿は空になっているし、時として鳴き声も聞こえるのに。
近所のゴミ置き場では、連続放火と思われる火事が立て続けに起き、
警察は警備を強化中。
主人公の家の近くのゴミ置き場は
ルールを守らない捨て方する人が多く、鴉の溜まり場に。
彼女は独り、(綺麗好きなので)掃除をする。
その近くのアパートに住み、ホームセンターで働く外国人も、
怪しげな気配を漂わせている。
物語りが進むにつれ、一家が内包する複数の難儀が露わに。
とりわけ夫の『真守』は想像を絶するクズ男で、
確かにルックスも人当たりも良いものの、
こと女癖の悪さは唖然とするほど。
嫁姑の関係も、傍目ほど良好ではない。
喉に刺さった骨のように、互いに心を開けずにいる。
順調そうに見えた『桃子』の石鹸教室も
企業の論理の中で政争の道具にされつつある。
そして幾つかの事件は起きる。
主人公にとって弱り目に祟り目のように。
ただそれを乗り越えた先には、
生き方の新しい地平が開ける。
出ずっぱりの『江口のりこ』が出色で、
彼女の演技を観るための一本。
映画の出演本数は多いものの、
ほぼほぼが脇役で、主演作は片手を僅かに超えるほど。
とは言え力量は間違いのないところで
本作でも狂気にとらわれたように見えても、
奥底に潜む冷徹さとシニカルさを的確に演じる。
ギャグにも見える唐突な行動の表現も絶妙。
とりわけ、チェンソーを動かす時にわずかに浮かべる薄笑いには、
ぞっとすると同時にカタルシスを感じる。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
各エピソードの繋ぎとエスカレーションの仕方が職人芸。
サスペンス映画のように、不穏な空気を漂わせ
次第に押し迫ってくる。
事故が起きたり死人が転がるわけではないのに
胡乱さを感じる構成は、
次の展開が待ち遠しく、一時も画面から目を離すことができない。