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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

銀河鉄道の父@チネチッタ川崎 2023年5月5日(金)

本日初日。

席数154の【CINE9】は九割方の入りで盛況。

高齢者の姿が多いのも意外だし、
子連れの母親も居たりで、
随分と広範な客層。

 

 

本作の主人公はそのタイトル通り
宮沢賢治』の父親の『宮澤政次郎(役所広司:演)』。

『賢治』原作の映画化やアニメ化は数多くあれど、
稀代の有名人である作家本人にスポットを当てた作品は少ないと記憶。

直近のノンフィクション、
今野勉』による〔宮沢賢治の真実-修羅を生きた詩人(2020年)〕のような著作を底本に
妹の『トシ』を含めて劇的な映像化もできたとは思うが。

にもかかわらず敢えてその父親を描こうとのモチベーションは
原作者の『門井慶喜からして頗るユニークな視点。


とは言え、こうして主人公としての父親の生涯を俯瞰すると、
時代を越えた感慨を持つのも事実。

授かった長男を溺愛するあまり入院に付き添い、
却って病を感染されてしまうなどはその好例。

イマで言うところのイクメンの嚆矢か?
いやその親バカぶりは膏肓に入っているとの表現があてはまる。

時として悩み、時として反発し、しかし
傍から見れば思わずくすりと笑ってしまう
愛したばかりに弱みを見せる父親の可笑しさ。


二男三女に恵まれはするものの、
上二人の男女を共に結核で亡くすのは痛恨の極み。

結核についていえば、
当時の特効薬ストレプトマイシンが世間に出回るのは1950年以降のこと。
栄養が十分に足りている家の人間でも罹ってしまうのは
死病と恐れられることの背景。

また、次男が元々の生業である質屋を
機械等を扱う「商会」に業態変更するなどの変転も体験。


が、やはり、『政次郎』の一番の心配のタネは
長男だったろう。

そのエキセントリックな性格や突飛な行動は、
今の基準で見ても甚だ異端。

三十七歳で亡くなるまで独身を貫き、
(ただ本作では『保阪嘉内』との関係性による懊悩は
すっぽり抜け落ちているが)、
家を重視する当時の社会規範から見れば
(いくら最愛の息子とはいえ)それなりに手を焼いたことだろう。


『トシ』についても女学校時代にはスキャンダルに見舞われ辛酸をなめ、
家族も辛い思いをしているハズだが、
そのあたりのエピソードもすっぽり外しているのは、
やはり長男との関係性を強く前面に出したいがためかとも納得はする。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


準主演の『菅田将暉』は
奇矯な行動と、相反する温和さも併せ持ち、
最後は諦念の境地に至る『賢治』を
鬼気迫ると評しても良いほどの渾身で演じる。

観ていて鳥肌が立ってしまうほどの。