封切り三日目。
席数98の【SCREEN10】の入りは六割ほど。
監督の『伊藤ちひろ』は
過去多くの映画の脚本に、
とりわけ『行定勲』作品に携わっているとの認識。
なので企画・プロデュースとして
『行定』の名前がクレジットされているのだと理解。
その期待で観に行ったものの
『伊藤』が原案・脚本・監督の全てを務めた本作は
がっかりの一言。
他作との比較では
『河瀨直美』による〔沙羅双樹(2003年)〕に類似の印象。
要は、記憶に残る事件も起きず、主人公の行動も不可解。
総じて登場人物のキャラクターは相当に掴み辛い。
とりわけ『未山(坂口健太郎)』は
過去が絡むとまるっきりの別人のように態度がよそよそしくなり、
観ている側は言行の不一致感に混乱させられる。
その『未山』はいわゆる「見える人」なのに加え、
死霊も生霊も引き寄せてしまう体質。
ただ、霊が何を言いたいのかを正確に測ることはできず、
なんとなく意図が伝わる程度の能力。
血は繋がっていないものの、
同居している恋人『詩織(市川実日子)』の娘の方が、
そのチカラは長けているよう(不思議なめぐりあわせだが)。
もともとは東京出身の彼は、富山にも居たことがあり、
今では長野に流れ着いて一年。
しかし、その間の事情や、
『詩織』との馴れ初めが詳らかにされることはない。
それがどうにも共感できない一因にもなっている。
東京に出るにも身一つ。
普段と変わらね服装は浮世離れしている。
所作も現実感が無く、
遊離した雰囲気を醸す。
近所の人に頼まれては些細な能力を発揮し、
居場所を確保しているのだが、
自身に憑いている生霊については
幼い『美々(磯村アメリ)』に指摘されたことで
ようやく物語りは動き出す。
もっとも、そこに至る序段部の描写は相当に冗長。
変哲の無い日々の暮らしを繰り返し見せられ、
驚くべきエピソードも無く、
次第に欠伸が出そうになるほど。
嘗ての恋人に再会する鍵となる
後輩のミュージシャンとの関係性も、
その当人である『莉子(齋藤飛鳥)』との過去も
同様に模糊とし、
説明の描写を拒んでいる様にさえ見える。
勿論、制作者サイドは、編年でしっかり作り込んでいるのだろうが
ファンタジーの要素を色濃くするためか、
曖昧さを善しとする方針の打ち出しが失策にしか感じられない。
評価は、☆五点満点で☆☆☆。
最後のシークエンスにとりわけそれは顕著。
『未山』の存在は、他の人達にとって
一体なんだったのか。
もやもやとした思いが胸の中に渦巻き
困惑した感情だけが残される