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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ワース 命の値段@チネチッタ川崎 2023年2月25日(土)

封切り三日目。

席数244の【CINE7】の入りは六割ほど。

 

 

我が国於いても、「命の値段」の算定は日々行われており、
裁判であれば、損害賠償金として示されるし、
保険でもそれは同様。

もっとも金額は法律で規定されているわけではなく、
年齢や年収等を勘案し都度算定され、
保険会社等であれば、独自の算出式は当然持っているのだろう。


とは言え、短い期間で、七千人もの犠牲者とその遺族に
補償金を分配するのは極めて稀ではないか、
ましてやそれが「9.11」によりもたらされたなら、
猶更の困難が伴うのは容易に想定でき。

もっとも、この基金が創設された経緯は相当に胡散臭い。
訴訟に持ち込まれれば長年に渡って経済活動が停滞し、
その影響は広大になると危惧する
国家と企業の妥協と打算の産物。

期限を短く区切る理由もまさにそこにあり、
誰も遺族のことなど考えてはおらず、
要は体の良い外向きのパフォーマンス。


一方、その大事業を、
あろうことか無償で引き受けた『ケネス・ファインバーグ(マイケル・キートン)』には
彼なりの矜持が。

企業を相手に裁判を起こしても、何時結審するかも不確実な上に
必ず勝てる保証は無し。

で、あれば、この制度を利用した方がよりメリットがあるだろうとの
一種の親切心。

「命の値段」を算出する式を創り、各人の状況を当て嵌め、
ビシビシと提示する。その利点を大いに強調しながら。

にもかかわらず、目標とする八割の合意には遠く及ばず、
殆どの対象者から喰らう総スカン。

その背景には何が有るのか、と
果たして主人公は目標を達成できるのか、の
二つが見所のわけだが・・・・。


一般的に算定される「命の値段」には(先に挙げたように)軽重があり、
とは言え
テロに巻き込まれて亡くなった親族からすれば
納得できぬのは心情的にも理解。

勇敢に闘った消防士だから、
証券会社に勤め年収が高いのだから、等の
思惑はある上に、他者へのやっかみも当然存在。

あまつさえ、八つ当たりする人間も出て来る始末で
『ケネス』も彼のスタッフも次第に追い詰められる。


しかし答えは、ある意味、判り易い所に。
要は、人と人との繋がりは、どこから始まるのか、との
原理原則。

提示される数式と金額ではなく、
言葉による対話と、
相手の立場に立ったカスタマイズが
事態を解決に導いて行く。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


私欲は無いとは言え、
学者肌でビジネスライクな『ケネス』が
次第に変化する経緯は感動的。

そのカギとして用いられる、
犠牲者の家族の心情の吐露は
当然のように涙を誘い、
これで心を動かされない人間は
果たして居るのだろうかとの思いを強く持つ。