RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

母の聖戦@109シネマズ川崎 2023年1月21日(土)

封切り二日目。

席数118の【シアター3】の入りは五割ほど。

 

 

メキシコでは実際に、このような誘拐ビジネスが横行しているのだと聞く。
その意味で本作は、一種の「実話」と言えるかもしれない。
モデルとなった「母親」もいるようで、
エンドロールの直前に、彼女への謝辞がクレジットされる。


誘拐された娘を取り戻すため、孤軍奮闘する母親の物語り。

身代金を支払ったにもかかわらず、子供は戻されず、
父親である夫は及び腰、加えて、地元警察は全くの非協力との
四面楚歌の状況のなか。

一市民にしか過ぎない母親が打てる手は限られ、
彼女には裏ルートへ繋がる筋も無く。

ましてや相手は銃で武装した集団。
衆寡敵せずの表現通り、個だけではあまりに無力。


娘のボーイフレンド、街の顔役、警察官、商店の主人、
死体安置所の責任者、軍隊の新任の中尉と、多くの人物が周囲に現れる。

しかし、別居している夫や彼の今の情婦も含め
誰が味方で誰が敵なのか、或いは
犯罪組織と繋がっているのかいないのかも判然とせず。

近隣の住人でさえ、主人公を簡単に売ってしまう可能性さえ否定はできぬ。

疑心暗鬼になりながらも勇気を奮い
『シエロ(アルセリア・ラミレス)』が
果敢に立ち向かうことで、
真相は一歩ずつ彼女の側に近づいて来る。

強固な意志に裏付けられたその顔がアップになるシーンが多く用いられ、
時として絶望を、そして疲れを、また微かな希望を感じさせる表情が変わる度毎に、
我々もその強靭さに感じ入る。


そうした「義」の有る側に敵対する
犯罪をする側の態度はあまりにストレート。

悪びれることもなく、さも当然との風に対峙する。

あまつさえ、罪の意識は微塵もなく、
自分が害を及ぼした相手にすら
呪いの言葉を吐く始末。

何が彼等をこのようにさせてしまうのか。
一方で自身の一族に対する愛情は人並みに持っていることが、
あまりにアンビバレンツ。

他者の側に立ち憐憫を感じることのできぬ精神構造が
如何にして形作られるのかと暗澹とした思いにも囚われる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


『テオドラ・アナ・ミハイ』は女性監督で
本作が初の長編作品と聞く。

準備に時間をかけ、
且つ、彼女の才気も十分なのだろう、
重いテーマの中で、主人公が際立つ造りは鮮やか。

観る人により、
どうにでも受け取ることのできるラストシーンも含めて。