RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ケイコ目を澄ませて@109シネマズ川崎 2022年12月27日(火)

封切り十二日目。

席数72の【シアター10】の入りは満席。

小さい箱ながら平日の昼間にこれは凄い。
近隣での上映は無く、更に一日一回のみとの条件を差し引いたとしても。

 

 

99分尺の小品。

なによりも予告編のトーンが微妙なので
鑑賞を迷っていた。

封切り当初の上映館も少ないしで、
さてどうしようと思案していたら
評論家筋の評価が滅法高い。

煽りとは思うが、各所の告知でも
「上映館も増え」とか書かれていれば
もう気になって仕方ない。

ましてや『岸井ゆきの』は好きな女優さん。
〔愛がなんだ(2019年)〕も〔やがて海へと届く〕も良かったし。


その彼女が冒頭から驚かせてくれる。
顔の形が明らかに違っている。

それに続くシーンで筋骨隆々な背中を見せられ、
ああこれは、体重を増やし筋肉を着けた結果だな、と
得心が行く。

更にそこからのミット打ちの場面も素晴らしい。
何時まで続くの?との驚嘆の長回しで、
延々とトレーナーと対峙。
どれほどの研鑽を積んだのか。


主人公は聾唖の女性ボクサー
『小河恵子(岸井ゆきの)』。

同居する弟との暮らし、
ホテルでの清掃作業の仕事、
ジムでのトレーニングやロードワークと、
変わりない毎日をカメラは淡々と追う。

中途、耳が聞こえないことによる不便や
同じ聾唖者の友人との交流、
離れて住む母親との遣り取りが
スパイスの様に振り掛けられ、
彼女の人となりが、
心に潜む懊悩が次第に浮かび上がって来る。


そんな折、『恵子』が所属するジムの閉鎖が決まる。

『会長(三浦友和)』は他所でぞんざいな扱いを受けた彼女を
受け入れ、親身になり、実の娘の様に育てた恩人。

期待を背にリングに上がった結果はしかし、
主人公の心情に大きく変化をもたらす。


実際にプロで四戦をした
『小笠原恵子』の原作が基で
本人をモデルにしているとは思われるも、
エンドロールで触れられるように、
本編はあくまでも原作ありきのフィクションと捉えるべき。

三戦が終わった時点でも、
『恵子』の闘争心はまだまだ燃え盛っているのだから。


感得・脚本の『三宅唱』は〔きみの鳥はうたえる(2018年)〕を撮っているが、
そちらはあまり感心しない一本
(『佐藤泰志』原作のせいか?)。

ところが本作では見違えるよう。

主人公には聞こえない「音」を観る側には
過剰に意識させる構成。

また、母親の心情を、
娘の試合を撮ったブレた写真で表現するなど、
思わず膝を叩く素晴らしさ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


ボクシング映画に外れナシ、とは
以前に書いたことがある。

直近の2020年には〔アンダードッグ 前/後編〕があり。

女性が主人公でも
ミリオンダラー・ベイビー(2004年)〕
〔百円の恋(2014年)〕も挙げられ、
拳闘のシーンは少ないものの
本作もそれらに比する出来だろう。