RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

LOVE LIFE@TOHOシネマズ川崎 2022年9月10日(土)

封切り二日目。

席数142の【SCREEN1】の入りは二割ほど。

 

 

少し前に流行った{楽曲インスパイア系}も、
最近はあまり目にしないなと思っていたら、
本作のようなカタチで繰り出されるとは、
完全に意表を突かれた。

矢野顕子』の〔LOVE LIFE〕は聴いたことがあるものの、
内容はかなり抽象的。

それをよく、ここまでのストーリーに膨らませたな、と
先ずは感心する。


連れ子の『敬太』と
新しい夫『二郎(永山絢斗)』と幸せに暮らしていた『妙子(木村文乃)』だが
ある日不慮の事故で愛息を亡くしてしまい、
そのことが夫婦の関係に影を落とす。

果たして二人は悲しみを乗り越え、
互いの間にできた溝を埋め、
再生することができるのか?がテーマ。


そこに前夫の『パク・シンジ(砂田アトム)』が不協和音の様に絡む。

『パク』は妻と息子を捨て、数年前に突然失踪。
必死に捜したにもかかわらず、行方は杳として知れなくなっていたのに、
息子の死を契機に、突然姿を現す。

『パク』は聾唖であり、
単独では他者とのコミュニケーションがかなり不便なことも背景にあり、
最初は戸惑っていた『妙子』も、前夫の今の境遇を知り、
人が変わったように面倒を見だす。

昨今言われている「ケアラー」としての役割を
率先し果たす元妻の姿は
息子を失ったことの「代償行動」や「昇華」或いは「母性」の発露にも見え。


一方の『二郎』も結婚前に付き合っていた元カノ『山崎(山崎紘菜)』と
再び交流を持つように。

しかしこちらの方は、やや淡い関係にも見え。


入れ込み過ぎた『妙子』の『パク』への思いは、最後には痛烈なしっぺ返しを喰らう。
彼女が考えていたほど、元夫は弱者ではなく、かなりしたたかに生きて来たのだ。

そのことを理解した後の彼女の行動は、傍目にはかなり欺瞞に映る。
が、自身も後ろめたさがある『二郎』は、果たしてそれをどう受け取るか。

余地をたぶんに残したラストシーン以降の解釈は、
どうやら鑑賞者に委ねられたよう。


現夫と前夫には、演出でも科白でも散々示されている通り、
視線を合わさない・合わすとの、大きな違いがあり。

製作サイドは
交わすこと=善
交わさないこと=悪、と
ステレオタイプに切り分けたいようだが、
聾唖であれば、
限られたコミュニケーションの手段として必然的に向き合わざるを得ないだろう。

ましてや己の体験として
「※※クンは、話す時に目を真っ直ぐに見るので、こちらの方が気恥ずかしくなる」と
言われたことがある身としては、全く肯定できぬのだが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


鑑賞前に何本かの評を読んだが、
その何れもが『敬太』が亡くなるくだりを暗喩としている。

しかし前後の文脈からは、そうした事件が起きたことは明らかで、
何故そのような書き方にこぞってするのか、隔靴搔痒の感あり。

それが制作サイドの要請の結果だとしたら、
正鵠を射ていない気もするが。