RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

THE BATMAN-ザ・バットマン-@109シネマズ川崎 2022年3月12日(土)

封切り二日目。

席数118の【シアター3】の入りは八割ほど。

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「目には目を歯には歯を」は「ハンムラビ法典」での報復律だが
同様の文言は「旧約聖書」にも見え、
これに対して『イエス』は「新約聖書」の中で戒めるわけだが
凡庸な我々は、当然の様にそうした寛容さには達することはできない。

それは、漆黒のコスチュームを身に纏い
ゴッサムシティ」に巣食う悪を駆逐すべく
日夜邁進する『バットマン』にしても同様。

彼の行動原理は、
悪の巣窟である街の浄化とは大義名分であるものの、
その実態は、
ブルース・ウェインロバート・パティンソン)』の両親を殺害した、
ゴッサムシティ」そのものへの復讐に他ならない。


一方で、本作のもう片方の主人公『リドラー』の場合はどうか。

「riddle」が好きなことから発したであろうそのネーミングが安直なのはさておき、
そのターゲットは、腐敗した街に巣食い甘い汁を吸う官の側の人間。

本来であれば正義を行使すべき立場にもかかわらず、
悪と癒着している権力者が標的であり、
結果的には、街の正常化に繋がる様に最初の内は見えるのだが、
やがてそれは表面的な糊塗に過ぎず、
実体は復讐譚(それも二重の)であることが露呈する。

自身の育った環境への不満と共に、
陽の当たる場所を歩いて来た『ブルース』への憧憬と嫉妬が相俟っての
何とも矮小な動機。

実際の「ゾディアック事件」をベースにしているという彼の造形は
自己顕示欲の塊りで、
見えない存在である自分を、世間に知らしめる為にコトを起こす。

そして最終的には、その行動原理は
人倫に悖る行為なのが露呈してしまうのだ。


バットマン』になることを決意してからまだ三年目の
ブルース・ウェイン』は
闇に囚われ、昼間の本業にも支障を来す状態。

肌は荒れ、目の下には隈が出来、
活力の存続すら怪しく見える。

そんな彼が『リドラー』が投げかける「謎」に困惑し
否が応でも自身の過去に向き合うことになる。

ただそれは、両者にとっては重要なファクターかもしれぬが、
鑑賞者の側からすれば、
「親は親、子は子」との因果律からは離れた内容にも思えるのだが。


三時間近い長尺の殆どが夜や雨のシーンであり、
且つ先に挙げた鬱々とした描写もあり、
観ている側は次第に陰鬱な心持に苛まれる。

が、それを取り払うようなラストシーンは、
行為としては同様ながら、背景に在るものを刷新し、
生まれ変わったヒーロー像の示唆に違いない。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


これはシンクロニシティとも言うべき奇妙な符合なのだが、
直近の〔ミステリと言う勿れ〕の〔episode14〕にも、
同様に 軽く扱われた/透明な存在 による犯罪が描かれる。

彼等はある意味、イマイマの時代が産み出す
怪物なのかもしれない。