RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

孤狼の血 LEVEL2@チネチッタ川崎  2021年8月21日(土)

封切り二日目。

席数191の【CINE10】は
一席おきの案内なので実質は95席ほど。

その九割方は埋まっており、
この手の作品の人気の高さをうかがわせる。

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『大上(役所広司)』の死から三年、それにしても
バトンを受け継いだ『日岡松坂桃李)』の変貌ぶりはどうだろう。

初々しかった優男の片鱗も無く、
朱に交われば赤くなる、今では
暴力団の構成風の面相に変容。

それでも彼が暗躍した結果、呉原市の二大勢力は手打ち、
表面上は危うい均衡が保たれている。

もっとも彼にも漁夫の利は転がり込み、
恋人の『近田真緒(西野七瀬)』の店の維持や
自身の高級車に回せてはいるのだが。


そしてそれを快く思わない向きも、当然ながら存在。

一つは押さえつけられている側の組員の多く、もう一方は
警察の上層部。

特に後者は本来ヒエラルキー社会で個人のスタンドプレーは由とせず。
なのに末端の巡査が
如何にも肩で風を切ってのして行く
独力で差配するとの態度は許されるハズもなく。


そんな折、「五十子会」の構成員の『上林(鈴木亮平)』が出所する。

彼は自分が収監中に殺害された『五十子正平(石橋蓮司)』の仇を取るため、
関係者の身辺を洗い始める。

もっとも、「不惜身命」を背中に彫るこの男、
人間らしい感情は欠如、他人を殺める時は
シリアルキラーなみの残虐さを発揮。
それは幼少期のトラウマが影を落としているようなのだが。

「不惜身命」の言葉も、専らオヤジと慕い、
盃を交わした『正平』にのみ向けられる。

何れにしろ、『上林』の無軌道な行いは
上部団体の「広島仁正会」をさえ脅かし始め、
立て続けに事件は勃発する。


その二人のはぐれ者が対峙した時、
『上林』の残忍さも相俟って、
殺しの場では切った張っただけではない、
目を背けたくなるような凄惨なシーンが繰り広げられる。

観ている側も思わず身を捩りたくなるような。


暴力団内部にとどまらず、警察の側ですら
裏切り裏切られが次々と繰り広げられるのは常套手段。
加えて一つの大きな思いもよらぬ展開も用意され。

特にその仕掛けは出色で、
中途からうっすらとは透けては見えるものの、
全容が明らかになった時、あまりの精緻さに
思わず慄然とするほど。


しかし、窮鼠猫を噛む、全てを悟った『日岡』の行為に
物語りは急転直下。

結局、誰もが不幸に陥る終幕に至った時に、それでも
漁夫の利を得たのは誰だったか。

もっとも得られた栄華も束の間かもしれない、
「暴対法」が施行されるのは、一連の事件から
僅か四年後のことなのだから。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


冒頭の「東映」のマークが出るシーンや
テロップの出し方、ナレーションに至るまで、
往年の{任侠映画}へのリスペクトが溢れ出す。


が、もう一つ忘れてはいけないのが、
貧困や国籍による差別の描写。

これは直近で出版された〔映画評論家への逆襲〕でも触れられていたが、
この種の作品を撮るにあたっては、避けて通れぬ命題の様なのだ。