RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

17歳の瞳に映る世界@TOHOシネマズシャンテ 2021年7月18日(月)

封切り三日目。

席数190の【シャンテ-3】は
一席空けての案内なので実質95席が九割方の入り。

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本作を手短にまとめてしまえば、
望まぬ妊娠をした十七歳の少女が中絶をするまでの顛末、と
僅かに二十五文字で納まってしまう。

ただ、ここで語られる幾つもの出来事は、
簡単には割り切れない多くの核を内包し、
しかもタイトルにある通り、
何時誰の身にも形を変えて起きる可能性のあるもの。


少女が住むペンシルバニアでは
未成年が中絶をするには親の同意が必要。

が、当然、それを知られたくはないので
ネットの情報を頼りに
自分の意志だけで処置が可能なニューヨークを目指す。

長距離バスで三時間の旅程に同行してくれたのは彼女の従姉妹。

その旅費等の捻出の仕方がふるっているのだが、
そこで観客は弱い者へ皺寄せが行っている現実をも目の当たりにする。

人権には厳しいハズのアメリカの、これも一面なのか、と。


いざ望む場所に着いても、ことは簡単には進まない。

妊娠の周期により、処置の仕方が大幅に異なるため、
彼女らの目算は狂いに狂う。

手持ちの資金が尽きてしまった時に、
頼りも無い都会で取れる手段は限られ、
ここでもまた、性差を背景にした
搾取の構造が浮かび上がる。

レイティングの設定はないものの、
思わず目を背けたくなる場面。

一方で、二人の結びつきの強さを見せる、
秀逸なエピソードでもあるのだが。


冒頭、それとなく暗示はされるものの、
少女の妊娠の経緯が詳らかにされることはない。
相手の男も、たぶんそのことを知らないだろう。

しかし、診療所での質問に答える姿を
正面からひたとドキュメンタリータッチでとらえる場面で、
それがけして良い記憶でなかったことが、
背後にある闇が浮かび上がる。

このシーンこそが本編の白眉でもあり、
主演を務めた『シドニー・フラニガン』の演技力の確かさを
如実に示し、極めて秀逸。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


診療所の周辺では反対派がデモを行い、
過激な行動に出る者への対応として、
入場時には荷物のチェックまで行われる実態。

時はおそらくトランプが大統領に在任していた頃。
その動きはより活性化していたことだろう。


社会の矛盾を重ねて味わう過程は
極めて苦いロードームービながら、
ラストで示されるのは、
この短い旅を経て一回り大人になった彼女らの姿。

古来から連綿と紡がれてきた、
成長譚であるには違いない。