RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ライトハウス@チネチッタ川崎  2021年7月10日(土)

封切り三日目。

席数191の【CINE10】は九割方の入りと盛況。

それにしても、いくら封切館が少ないとは言え、
この手の映画がこんなに混むなんて
正直かなり意外なんだが。

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閉鎖空間で少数の人間が交わる時、
必ず狂気を発する者が出来する。

マンダレー」に囚われた『ダンヴァース夫人』は
レベッカ』の死との現実を受け入れられなかったのではなく、
おそらくは最初から狂っていたのだろう。

或いは雪に閉ざされたホテルでの『ジャック』の場合は、
次第に狂気に満たされて行く。


絶海の孤島に在る灯台に、二人の灯台守がやって来る。

一人はなりたての新米『イーフレイム(ロバート・パティンソン)』、
もう一人は老練の『トーマス(ウィレム・デフォー)』。

灯台以外には何もない島では、常に顔を突き合わせて暮らす必要があり、
時として仲違いも起きるのだろう。
それを慮り、人員は四週間で交替し、
併せて物資も運び込まれる。

冒頭のシーンでそれらは示唆されるのだが、
島を後にする前任の二人は、新たに来た彼らに声掛けをするでもなく、
足早に去って行く。

このプロローグの場面から、
物語りは既に不穏な空気を纏っている。


年長の『トーマス』は監督者の立場でもあり
若い『イーフレイム』に多くの雑用を言いつける。

観客は『イーフレイム』の視点で趨勢を見守り、
労働の理不尽さや、
なぜかしら灯台レンズのある部屋に入り浸る『トーマス』の姿に不信感を抱く。

しかし、既にして、この視線は正しいのか?


『イーフレイム』は次第に幻想を見るようになる。
が、それは現とも判別できない内容。

では彼をあざ笑うように纏わり付く鴎を
船乗りの禁忌に触れることを知りながらも撲殺したのは
現実に起こったことなのか。

或いは、繰り返し現れる人魚は、
どちらかと言えば「セイレーン」の位置付け。
交代要員を乗せて来るはずの船が四週を経て未だ着かないのは、
一つ嵐に封じ込められているからではなく、
彼女の金切り声で沈められてしまったのではないか。


次第に明らかになる『イーフレイム』の黒い過去も相俟って、
二人のどちらが正しいことを言っているのか、
何が事実なのかも模糊としたまま、
物語りは終局に向けて転がって行く。

そこに狂気に囚われた『イーフレイム』の姿を我々は見るのだが、
もう一方の『トーマス』も果たして真面な人間なのだろうか。

灯台レンズに魅入られた彼は
江戸川乱歩』の〔鏡地獄〕の主人公のような存在ではないのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


極めてサスペンス性の強い心理劇。

正方形に近い画角とモノクロームの画面を
緊張感を補強する手段として用いているのは
なかなかのアイディア。

音に関しても、霧笛と風雨と波涛の音がこれほど不穏に聞こえる作品は
今までもなかったろう。


一方で、会話が神話や古のジンクスに拠るものが多く、
特にそれらに馴染みのない日本人にとっては
かなり理解し難い内容になってしまっているのだが。