RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

望み@109シネマズ川崎  2020年10月10日(土)

封切り二日目。

席数172の【シアター4】は一席置きの案内だと実質86。
その七割りは埋まっている。

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車のトランクから男子高校生の変死体が発見される。
殴打の跡や刺し傷も生々しいそれは、息子の友人と判明。

車を捨てて逃走したのは二人。他にも
あと一人が事件に関わっていたとされ、
計三名の行方は杳として知れない。

警察は行方不明の息子を事件の関係者として追っているが、
その軽重を語ることはない。

彼は果たして加害者なのか被害者か。
家庭の中に疑心暗鬼が広がる。


加害者であれば主犯か従犯か。

被害者ならやはり殺害されているか
それともどこかに軟禁、或いは隠れているのか。

それぞのポジショニングにより、帰結には大きな振れ幅が。

家族の思いは千々に乱れる。
ましてや残された者は選択をすることはできない。
ただもたらされる結果を受け止めるだけだ。


生きていて欲しいのは当然も、それはイコール殺害に関わったことを意味し、
息子の日頃の言動から、そんな蛮行をするはずはないと信じれば
すなわち殺害されている確率が高くなる。
やや極端な二元論も、そう思わせる伏線はしっかり張られている
(それが刑事と記者の存在)。

前門の虎後門の狼の如く、どちらに転がってもデッドエンド。
事件が解決に導かれても、家族は以前の状態には戻ることはできない。
ぴりぴりと張り詰めた空気が家の中に蔓延。

確たる証拠もないのに、マスコミは人権を無視した取材攻勢を続け、
地域の人々は行き過ぎた義憤や日頃の鬱憤を
ここぞとばかりに一家にぶつける。


珍しく原作既読。
かなり考えさせられながら頁をめくった記憶。

読了後の評価も高。

もっとも自分が人の親だから、余計にそう受け取ったのかもしれないが。


ただ結末を知っていることで作品の観方は自ずと変わる。
脚本の練り込みや役者の演技、そして撮り方に関心は向かうわけで。

その点、本作はほぼほぼ満足の行く出来。

堤真一』『清原果耶』の達者な布陣に加え、刑事を演じた男女二人が出色。
無機質な表情に終始し一種の薄気味悪ささえ漂わせ。

不安定さを感じさせる斜めの構図や緊張感を煽るBGMの使い方も適宜。

流石は職人『堤幸彦』と、唸りながら鑑賞。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


一見濃密に繋がっている家族でも、
事件が起きたことで各人の思いの差が露呈される。

父親と母親、それに娘では
立ち位置も違うし、これからの人生の長さも違うからそれは自明のこと。

ただ、もう少々尺を長く取り、その機微をもっと強く描いて欲しかった。