RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ミッドサマー@TOHOシネマズ日比谷 2020年4月1日(水)

封切り四十日を超えてなおも上映中は
作品そのものの話題性に加え、昨今の情勢も大きそう。

幾つもが封切り延期となり、
上映作品が払底しているためか。


そんな世情を反映して、
1日にもかかわらず席数456の【SCREEN1】の入場者は
ほんの数名。

まぁ、ロービーからして閑散だし。


開映直前まで入り口の扉は開け放たれ、
係員の巡検も常より高頻度。

営業を継続するため「三密」とはならぬよう留意する姿勢が
痛いほど伝わって来る。

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IMDb」でのレーティングは7.1、
「Metascore」は72
(レイテイングが「R15+」なのは、どーでも良いコト)。

が、日本国内での評価は押しなべて高いとは言えず。

それでも、あの〔ヘレディタリー/継承〕の『アリ・アスター』の一本。
先の作品ではちょっとしたシーンがあとあと思い出す度に
薄気味悪さがこみ上げ、正直今でもトラウマ。

それだけの仕掛けをした監督・脚本がそう大コケはすまい、などとの逡巡が
鑑賞が延び延びになった理由。


ストーリーそのものはかなりシンプル。

思いがけない事故で家族を亡くした『ダニー(フローレンス・ピュー)』が
友人に誘われ訪れたスウェーデンの田舎町ホルガでとんでもない体験をする。

それでも、特にその村に足を踏み入れてからは
多くの伏線や謎が散りばめられ、観る側は相当に頭を悩ませることになる。


先ずは主人公の造形が最後のシークエンスへの重要な伏線。

妹も精神的に不安定なことは描かれるものの、本人にしてもそれは同様。
元々の他者への強い依存心は、家族を失ったことで更に激化。

一方で頼りにしている恋人の『クリスチャン(ジャック・レイナー)』の心が離れそうなのも薄々感じており、
自身の全てを受け入れてくれる新たな家族を出現を待ち望んでいる。

加えて彼女の容姿。
金髪・碧眼はゲルマン民族の理想の見目ではなかったか。


「九十年に一度しか開催されない」との触れ込みの「夏至祭」はもっとも大きな謎。

人間の平均年齢を照らし合わせた時に
九十年に一度では、前回の祭りを正確に記憶している人は
理論的に一人もいないハズ。

文献として残してはいても、再現性の面ではどうなのか。

なので、その建て付けそのものが怪しい。

それを裏付ける論拠として挙げられるのは
小屋に飾られている過去の「花の女王」の写真の枚数。
一体幾つあるのやら。

写真が発明されてからまだ二百年ほどなのを勘案すれば
件の祭りはより頻繁に行われていると考えるのが妥当。

村人とよそ者との会話、「定期的に新しい血を入れる」や、
彼女等をこの村に誘った『ペレ』の「僕の両親は火事で亡くなった」
などからもそれは明らか。


などなどを考えながらスクリーンを注視すれば
ストーリーの方向性と帰結は自ずと見当が付いてしまう。

また村内に描かれた幾つものイコンを記憶しておけば
これから起こることの予想すら。

が、百五十分の尺が長すぎる、とか
飽きると思わせないのは流石の撮影と編集の妙。

何かが起きそうな剣呑な空気を纏わせながら、
ラストシーンに至るまで、観る者を牽引し続ける。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


もっとも、観ている最中に、自分の頭の中に先行する二つの作品が思い浮かんだのも事実。

一つは先に挙げた監督の前作で、
幾つかのエピソードでのセルフオマージュの側面。

そしてもう一つは『スタンリー・キューブリック』による〔シャイニング〕。
こちらは、二重の意味-孤独・狂気と新たな家族-で囚われる作品として。

また自動車での村に向かう際の空撮ショットなども。