RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ひとよ@109シネマズ川崎 2019年11月10日(日)

封切り三日目。

席数127の【シアター2】の入りはほぼ満員の盛況。

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子育てはたぶん後悔の連続だ。

あの時にこう反応していれば、ああ言っていれば、
現在とは異なる性格に育ったんじゃないか、
違う道に進ませられたんじゃないか、と。

もっとも今となっては確かめる術はない、どうあがいても
過去を変えることは不可能だから。


本作では、幾つかの親子の関係性が描かれる。

その中で主題となるのは、
子供達三人への途切れぬ暴力のエスカレーションを止めるため
夫を殺害した母親『稲村こはる(田中裕子)』のケース。

服役をし、出所後の何年かは全国を流離い、
(約束通りに)十五年を経て故郷に戻って来る。

それを迎えた長男の『大樹(鈴木亮平)』、次男の『雄二(佐藤健)』、
長女で末っ子の『園子(松岡茉優)』の反応を主軸に物語は展開する。


『こはる』は当時も今も自分のした行為に一片の疑念も持っていない、
何故ならそのまま放置すれば、お腹を痛めた子供等が
あやめられたかもしれないから。

一方、子供側の気持ちは複雑でそれは『雄二』に顕著。

母親が逮捕された後は、口さがない世間の目に
殺人者の子供と晒され、結果、その後の人生が狂ってしまったとの思いがある。

横暴に耐えてさえいれば、いずれは嵐も止むことがあるだろう
その時こそ開放されるとの過去の期待はしかし結果論。

そこにこそ母親の危惧との大きな乖離があり、
けして埋まることはない深い溝。

或いは論理的には納得していても
心情的に理解できないのかもしれない、なんとなれば人間は
不備の原因を己以外の他者に求めたいもの。


一度は崩壊した家族の関係が
十有余年を経て再生するのかがここでのサスペンス。

それ以外の家族関係をも対比させつつ、
閉塞感に満ちた地方都市を舞台にストーリーは終焉へと向かい流れて行く。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


母親を演じた『田中裕子』は〔共喰い(2013年)〕と類似の役柄ながらも、
天城越え(1983年)〕の時に近い好演に。

そして『松岡茉優』もまた役の幅を広げたなと印象付けられる素晴らしさ。

それ以外にも二人の兄弟を始めとして
長男の嫁を演じた『MEGUMI』に至るまでキャスティングと演技の妙が際立っており
監督の『白石和彌』の面目躍如の一本。