RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

描画図鑑@佐藤美術館 2021年7月23日(金)

以前はそうではなかったはずだが、
エレベーターで一気に5階に上がろうとすると
事務所の在る2階で強制停止され、
事務員さんが待ち構えており
検温を促される。

まぁ平熱だし、
エレベーターのボタンを押す前には
ちゃんと手指の消毒をしているので問題ないんだが。

それにしても吃驚した。

 

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標題展は昨年迄は”ShinPA”として開催されていたとの記憶。
今年からは装いも新たに、しかし出展作家の名前は見慣れたもの。

”現vs幻・うつつvsまぼろし展”との副題が付されながらも
面白い趣向が一つ。

5階のスペースには作品の制作過程をパネル化したものが
ずらりと並んでいる。

受付は3階に置かれているのだが、
先ずは5階に上がり、シャワー的に降りて来ると
見方が重層的になりより深まる感。


例を挙げると
『平良志季』の〔諱号す閻魔大王のネタ切れ〕。
勿論、タイトルを見ればくすりと笑ってしまうも、
描く前段階に服を用意し、それを着衣して確認しているなんて、
聞かなければ分からない内実。

『李倩』の〔人体の声〕も同様で、
医者が使う聴診器を準備とは作品と向き合えば
確かに成程ねぇと思ってしまう。


会期は~7月25日(日)まで。


女優顔@Spiral Garden 2021年7月22日(木)

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元々は今春に開催予定されていたものが
コロナ禍で延期になり、
7月14日(水)~8月8日(日)の会期で開催中。

 とはいえ、非常事態宣言中ではあるけどね。


元来、映画ですら出演女優さんが観る観ないの判断に大きく影響するくらいだから
本展には興味津々。

五十人の顔のアップが並ぶ空間で歩を進めれば
満足度はいや増す。

皆々、白いシャツを着て、レンズを正面から見据え
しかし、表情はバリエーションに富む。


ほとんどが、顔を見れば名前と出演作が連想されてくる。

しかし、数名は名前が出て来ない人もおり、
添えられたカードを見て、ああそうか、と
思ったり。

或いは、記憶と顔が違っていて分からないケースもままあり。


中には、この人、女優さん?と首を傾げる人物もいるけど
まぁ、ご愛敬。

それよりも撮影年度を併せて確認することで、
ブレイクする前から目を付けていたんだと、
慧眼にも恐れ入ったり。


しかし一番の驚きは
高精細のカメラで撮った写真が
畳半畳ほどの大きさまで引き延ばしてプリントされているので、
肌の木目細かさは勿論だけど、
毛穴や産毛迄しっかり映り込んでいること。

素人なら、きゃ~やめて~となるところを、
逆に、しっかりと受け止め晒している。
つくづく女優魂と思う。


何れにしろ、この夏、必見の本展。
機会があれば再訪したいもの。

 

Mimi Yokoo EXHIBITION@KITTE 4F 2021年7月18日(日)


「The Chain Museum」の展開するアプリ「ArtSticker」が
実ギャラリーで作品を展示する「REAL by ArtSticker」の第二弾。

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『横尾美美』の個展で
会期は~7月25日(日)まで。

 
同所には「インターメディアテク」も在るし

 同時に訪れれば尚、好都合。


ただ「IMT」が主に死によって構成されているのに比し、
標題所は原色を使い細かく描き込まれた作品が並び、
さながら南国を思わせる賑やかさ。

それに釣られてか、人の入りもぱらぱらとアリで。

江藤玲奈・竹原美也子2人展@UNPEL GALLERY 2021年7月18日(日)

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「それぞれの物語」なる副題が冠されているが、
なんともありきたり。

 でも、展示内容はそれとは関係なく満足の行くのも。
特に『江藤玲奈』の作品については。


先ずは〔星回り〕とされている一連のシリーズ。

星座とそれに纏わる生物を忠実に描いているように見えて
おそらくは違う。

星に見える墨滴は意図して配されたものではなく
偶然の産物だろう。

そこから絵を紡ぎ出すとの発想力に驚嘆する。

が、もっとも、大昔の人も
そうやって星座を創り出して行ったのだろうが。


似たような過程で造られる、
ストッキングを素材にした作品群も面白く観た。

とりどりのストッキングを
丸い盤面に釘を打ち付けて留めることで
生き物を表現している。


書かれている二人のプロフィールを読むと
歳も出身県も大学の専攻に至るまで同じ。

平面作品については何とはなしに共通の匂いを感じるのは
そのせいかもしれない。

17歳の瞳に映る世界@TOHOシネマズシャンテ 2021年7月18日(月)

封切り三日目。

席数190の【シャンテ-3】は
一席空けての案内なので実質95席が九割方の入り。

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本作を手短にまとめてしまえば、
望まぬ妊娠をした十七歳の少女が中絶をするまでの顛末、と
僅かに二十五文字で納まってしまう。

ただ、ここで語られる幾つもの出来事は、
簡単には割り切れない多くの核を内包し、
しかもタイトルにある通り、
何時誰の身にも形を変えて起きる可能性のあるもの。


少女が住むペンシルバニアでは
未成年が中絶をするには親の同意が必要。

が、当然、それを知られたくはないので
ネットの情報を頼りに
自分の意志だけで処置が可能なニューヨークを目指す。

長距離バスで三時間の旅程に同行してくれたのは彼女の従姉妹。

その旅費等の捻出の仕方がふるっているのだが、
そこで観客は弱い者へ皺寄せが行っている現実をも目の当たりにする。

人権には厳しいハズのアメリカの、これも一面なのか、と。


いざ望む場所に着いても、ことは簡単には進まない。

妊娠の周期により、処置の仕方が大幅に異なるため、
彼女らの目算は狂いに狂う。

手持ちの資金が尽きてしまった時に、
頼りも無い都会で取れる手段は限られ、
ここでもまた、性差を背景にした
搾取の構造が浮かび上がる。

レイティングの設定はないものの、
思わず目を背けたくなる場面。

一方で、二人の結びつきの強さを見せる、
秀逸なエピソードでもあるのだが。


冒頭、それとなく暗示はされるものの、
少女の妊娠の経緯が詳らかにされることはない。
相手の男も、たぶんそのことを知らないだろう。

しかし、診療所での質問に答える姿を
正面からひたとドキュメンタリータッチでとらえる場面で、
それがけして良い記憶でなかったことが、
背後にある闇が浮かび上がる。

このシーンこそが本編の白眉でもあり、
主演を務めた『シドニー・フラニガン』の演技力の確かさを
如実に示し、極めて秀逸。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


診療所の周辺では反対派がデモを行い、
過激な行動に出る者への対応として、
入場時には荷物のチェックまで行われる実態。

時はおそらくトランプが大統領に在任していた頃。
その動きはより活性化していたことだろう。


社会の矛盾を重ねて味わう過程は
極めて苦いロードームービながら、
ラストで示されるのは、
この短い旅を経て一回り大人になった彼女らの姿。

古来から連綿と紡がれてきた、
成長譚であるには違いない。

 

プロミシング・ヤング・ウーマン@TOHOシネマズ川崎 2021年7月17日(土)

封切り二日目。

席数147の【SCREEN2】の入りは五割ほど。

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そのタイトルにある通り
カサンドラキャリー・マリガン)』は将来を嘱望された女性だった。

医療系の大学に入り、その手技も頭脳も
並みいる男子学生達を圧倒していた。

なのに今は、街場のコーヒーショップで
やる気もなさそうに店員の仕事をこなす毎日。

店の主任の『ゲイル』とは上手くやっているものの、
齢三十にして恋人もおらず、ましてや親しい同性の友人も。


そんな彼女だが、夜な夜なバーに繰り出しては泥酔したふりをして、
目ざとい男にわざとお持ち帰りをさせ、
すんでのところで素面の正体を見せ
男を怖気させることを繰り返す。

手帳に記した名前や人数も、もう幾つを数えるか。

しかし一歩間違えば危険と隣合わせのそんな所業を
カサンドラ』は何故に重ねるのか。

そこには、
大学を中退することになったある事件が背景にあり、
彼女は今でもそのトラウマを抱えているのだが。


もっとも男の側からすれば
主人公の行いはもう恐怖でしかなく、
自分はそんな経験はないけれど、
実際に直面すれば、それはもうほぼほぼホラー。

身の毛もよだつ事態に違いなく、
彼女が変容するシーンでは
おどろおどろしいBGMも流され
当事者は肌に粟を生じるわけだが、
鑑賞者の側からすれば本来は爆笑の場面なのだろう、
特に女性からすれば快哉を叫ぶような。


一貫して描かれるのは、
男女間の差別や社会規範についての異議申し立て。

同じ行為をしても、
男性であれば、若気の至りと済まされるのに、
女性なばかりに
ふしだらとか、身持ちが悪いと断罪されてしまう。

或いは、男性なら、将来があるのだから、と
軽く済まされ、女性は不本意にもその代価を払わされてしまう。

彼女らにも、輝かしい未来が約束されていたことについては
同様のハズなのに。

当事者や身内であれば、我が事として理不尽さに異を唱えるも、
世間や権威は、そういったことにまるっきり無頓着であることに対する
プロテストとしての『カサンドラ』の所業の数々。

ある種〔水戸黄門〕に近い解決の仕方なれど、
その選択はどうにも悲しすぎて胸が痛くなってしまう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


監督・脚本の『エメラルド・フェネル』は
女優もこなすマルチタレントで、本作のヒロインの設定年齢とも
極めて近しいと聞く。

古くから隠然と存在するテーマを、
極めてイマ風な表現で見せているのだが、
こうした世情は、洋の東西を問わずなのだと、
同様の偏見は間違いなく、
自分の中にも存在するのだと改めて気づかされる。

もっとも、脚本の造り自体はかなりオーソドックスなので
中盤以降の流れはかなり読めてしまう恨みはあるのだが。

ライトハウス@チネチッタ川崎  2021年7月10日(土)

封切り三日目。

席数191の【CINE10】は九割方の入りと盛況。

それにしても、いくら封切館が少ないとは言え、
この手の映画がこんなに混むなんて
正直かなり意外なんだが。

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閉鎖空間で少数の人間が交わる時、
必ず狂気を発する者が出来する。

マンダレー」に囚われた『ダンヴァース夫人』は
レベッカ』の死との現実を受け入れられなかったのではなく、
おそらくは最初から狂っていたのだろう。

或いは雪に閉ざされたホテルでの『ジャック』の場合は、
次第に狂気に満たされて行く。


絶海の孤島に在る灯台に、二人の灯台守がやって来る。

一人はなりたての新米『イーフレイム(ロバート・パティンソン)』、
もう一人は老練の『トーマス(ウィレム・デフォー)』。

灯台以外には何もない島では、常に顔を突き合わせて暮らす必要があり、
時として仲違いも起きるのだろう。
それを慮り、人員は四週間で交替し、
併せて物資も運び込まれる。

冒頭のシーンでそれらは示唆されるのだが、
島を後にする前任の二人は、新たに来た彼らに声掛けをするでもなく、
足早に去って行く。

このプロローグの場面から、
物語りは既に不穏な空気を纏っている。


年長の『トーマス』は監督者の立場でもあり
若い『イーフレイム』に多くの雑用を言いつける。

観客は『イーフレイム』の視点で趨勢を見守り、
労働の理不尽さや、
なぜかしら灯台レンズのある部屋に入り浸る『トーマス』の姿に不信感を抱く。

しかし、既にして、この視線は正しいのか?


『イーフレイム』は次第に幻想を見るようになる。
が、それは現とも判別できない内容。

では彼をあざ笑うように纏わり付く鴎を
船乗りの禁忌に触れることを知りながらも撲殺したのは
現実に起こったことなのか。

或いは、繰り返し現れる人魚は、
どちらかと言えば「セイレーン」の位置付け。
交代要員を乗せて来るはずの船が四週を経て未だ着かないのは、
一つ嵐に封じ込められているからではなく、
彼女の金切り声で沈められてしまったのではないか。


次第に明らかになる『イーフレイム』の黒い過去も相俟って、
二人のどちらが正しいことを言っているのか、
何が事実なのかも模糊としたまま、
物語りは終局に向けて転がって行く。

そこに狂気に囚われた『イーフレイム』の姿を我々は見るのだが、
もう一方の『トーマス』も果たして真面な人間なのだろうか。

灯台レンズに魅入られた彼は
江戸川乱歩』の〔鏡地獄〕の主人公のような存在ではないのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


極めてサスペンス性の強い心理劇。

正方形に近い画角とモノクロームの画面を
緊張感を補強する手段として用いているのは
なかなかのアイディア。

音に関しても、霧笛と風雨と波涛の音がこれほど不穏に聞こえる作品は
今までもなかったろう。


一方で、会話が神話や古のジンクスに拠るものが多く、
特にそれらに馴染みのない日本人にとっては
かなり理解し難い内容になってしまっているのだが。